あなたが初めてきたお客さんに「グリーンカレーを辛さ抑えて、パクチーを抜きでお願いします。」 と言われたら、どう思いますか?
お客様の好みに合わせて、できる限り希望に沿うようにする方が多いと思いますが、料理人が考えるベストの味付けではないでしょう。
「これがうちのグリーンカレーなんだ。食べてみて!」
ではないのは明白です。
デザイナーとクライアントとの間でも同じようなことが起きることがあります。
もちろん、デザイナーの方達も、料理人と同じように自分の作風を仕事で100%出す、妥協はしない、とは思っていないとおもいます。
しかし、双方ともができる限り、気持ちよく仕事をすることで、素晴らしいものができるはずです。
今回は、飲食店経営者がデザイナーに仕事を依頼する時に大事なことあげていきます。
これさえ守れば、お願いしたデザイナーさんは、飲食店を経営する貴方の最大のサポーターとなってくれるでしょう。
これは、筆者が今までデザイナー、クリエイターと仕事をし、感じたことを記しています。
もしデザイナーの方にもこの記事を読んでいただけたのなら、ぜひ、こんな点も考慮してもらえるとやりやすいなどのご意見をいただきたいです。
ちなみに筆者は、デザインのセンスとは全く無縁のため、多くの方に助けていただいています。
依頼する時に、一番気になるのは、そのデザイナーが、どんなタッチ、どんな作風のものを今まで作ってきているか?
だと思います。
これは、ポートフォリオなどで、フィーリングが合うか確認することでしょう。
そして、しっかり理解してもらいたいのは、デザイナーにとって、あなたからの依頼は、作品ではなく、商品だということです。
つまり、デザイナーの意向100%の創作物ではなく、商用目的で依頼された仕事であり、自分のアイデア、センス、スキルを形にして、あなたのリクエスト、利用目的に合わせて提案してくれるのです。
そこで、確認しておいて欲しいのは、デザイナーに任せるべきこととクライアントが決めること、この領域をはっきりさせることが大事になっていきます。
優秀なデザイナーほど、店主の話をよく聞き、どんなお店を作りたいか、どんな好みのクライアントなのか、よく汲み取ってくれます。
その気持ちに応えて、クライアントであるお店の経営者も、デザイナーの得意なこと、特徴を理解して最大限に能力を発揮してもらうように努力するべきです。
「お客様と店員は対等」
であると同じように
「クリエイターとクライアントは対等」
で尊重しあってなければなりません。
1. リクエストをしっかり伝える
一番勘違いしているのは、どんなデザインにしたいかを伝えるのが一番重要だと考えてしまうことです。
その考えは、デザイナーに依頼する時点で、捨て去ってください。
病院に行って、お医者さんに「インフルエンザだと思うんですけど。」
といってるのと同じで、それはお医者さんが判断します。
伝えなきゃいけないのは、お店に対する思いや、どんな料理を作りたいと思っているか、どんな店にしたいかです。
優秀なデザイナーほど、それらの情報や店主の服装などで、好みなどを読み取って具現化してくれるものです。
例えばお店のロゴを依頼するとしましょう。
・トスカーナ料理中心のイタリアンを開店したい。
・新しい料理やフュージョンではなく、クラシックな郷土料理を出したい
・ワインもナチュールではなく、コテコテのクラシックを楽しんで欲しい ・内装は、トスカーナの片田舎のアグリツーリズモをイメージして作る。
ここまではとてもいいです。
しかしここからが問題です。
・ワイングラスとトスカーナ州の形をモチーフにして欲しい
・オレンジ、グリーンをメインのカラーにして欲しい。
・店名を大きく書いて欲しい
こうなってくるとちょっと話が変わってきます。
この種のリクエストは、デザイナーの持ってるアイデアの引き出しを潰してしまってるのです。
デザイナーのせっかくの能力を狭めてしまっている行為だと考えるべきです。
当然、自分のお店を立ち上げるのに、思いは人一倍あるでしょうし、これだけは
どうしてもというリクエストがあると思います。
もし、どうしてもというなら、1点だけ伝える程度なら許容範囲だと思います。
リクエストをたくさん伝えたとしても、嫌な顔はせず「
わかりました!」
とデザイナーは言うと思います。
なぜなら、大人だからです。
縛りが多いなぁ。。いいの思いついたけど、赤はイヤだって言ってたもんなぁ。とテンションは下がるはずです。
また、中には何色を主体で、丸いロゴがいいか?四角?と事細かに聞いてくるデザイナーもいますが、優秀な方ほど、細かくは聞かず、意向を汲み取って想像以上のアィデアを出してくれます。
そして、リクエストとしてさらに重要なのは、そのロゴの用途です。
これは、デザイナーにはわからないことが多く、想像して汲み取ってくれる場合もありますが、飲食のプロではないので、できる限り具体的に伝えましょう。
ロゴはどこに使うのか?
看板、ショップカード、箸袋、HPのヘッダー、SNSのアイコン、メニュー
これらに全て汎用できるロゴを当然のように作ってくれるデザイナーであって欲しいですが、横長の看板だけでイメージをして、コースターになるとデザインの形がうまくはまらない、ということがおきます。
また、最近ではSNSの運用に力を入れているお店も多いことから、看板だったらいいロゴだけど、アイコンだと小さくて、なんだか全くわからない。
といったことが起こります。
より具体的、用途を伝えていきましょう。
2. なぜ、デザイナーにお願いしないとならないのかを自覚する
デザイナーに依頼するということは、その仕事を自分ではできないからであることを途中で忘れてしまう人がいます。
お店の内装のデザインを依頼した場合に、特に多く見受けられるのが、デザイン性と相反する機能性や席数などの売り上げ予測で、デザイナーの意向を潰してしまうことが多くあります。
もちろん、あちらの意向を尊重しすぎて、明らかに儲からない店になってしまったり、内装費用が膨れ上がってしまったりしてはいけません。
ただ、これもロゴを依頼する時と同じで、店主が意見を押し通した分だけ、総合的にみて素敵かどうかを考えているデザイナーの能力を削ってしまうことになります。
お店をトータルで見て、他にはない素晴らしい空間になるか、目に留まる看板になるかを考えている人に最大限の協力をしてあげてください。
それがどうしても嫌ならば、自力で内装を決めて進めていくほかありません。
デザイナーの言うことを全て聞けということではありませんが、最大限の尊重をするべきで、自分にはできない苦手な能力を補ってもらってることを忘れないでください
3. 複数の人に依頼したり、折衷案をとったりしない。
いろんな人の意見を聞いて、決めたデザインは、伝わるパワーが弱く最悪のものになることが多いです。
例を挙げるなら、「田舎の国道のドライブイン」みたいな感じになります。
繰り返しになりますが、店主の意向を汲み取って、トータルで考えてくれるのが、素敵なデザイナーの仕事です。
ロゴのこと、内装のことと話してきましたが、どちらも同じ方にお願いするのが当然のことながらいいですよね。
しかし、お店のデザインはAさんにお願いして、後から必要になったHPのバナーは、違う方に依頼してしまうお店が多くあります。
これはできるだけ避けるべきです。
優秀な方ほど、どんなシーンや用途でも汎用性を考えた上で、最初からイメージできています。
それと同じく、デザイナーが提出してきたロゴのA案とB案の折衷案を取ることをこちらからお願いすることは、絶対にするべきではありません。
A案のマークで、B案の文字を合わせたのがいい
と考えてしまうことがあるのです。
これはお勧めしません。
いろいろなバランスを考えた上で、アイデアを出してくれており、それをごちゃごちゃにしてしまいます。
ざっと言うと、グリーンカレーのタイ米で、いくら丼を食べるようなもんです。
そして、優秀なデザイナーは、複数の候補となるアイデアを出してくれて「どれがいいですか?」と聞いてくれると思いますが、クライアントは、このデザインを気にいるだろうと1つに絞って、確信して提出しています。
お願いした方を信頼し、できるだけ、一人の人に継続し、複数のアイデアをまとめた案を採用するのは、避けるべきだと思います。
4. 料金と成果 (買取の場合)
NIKE のロゴは、3000円であることは有名な話ですが、デザイナーの報酬は、ピンキリです。
そして、このロゴがお店の利益に結びついているかどうか、効果測定するのは不可能でしょう。
筆者は、ロゴを5000円で作ってもらったことも30万円で作ったこともあります。
どちらがいいという断定はできませんし、当然、開業当初の予算もあるはず。
ただ参考までに、5000円のロゴを作るデザイナーと30万円のデザイナーの違いだけ記しておきます。
5000円
・3日で出来上がる
・リクエスト、好み、モチーフにしたいものなどを細かく聞いてくる
・ヒアリングの時間は、15分
30万円
・「まだ、浮かばない、もう少し待って」と1ヶ月で出来上がる
・聞いてきたのは、店名のみ
・ただ飲みながら3日3晩、お店を出す経緯を話したり、思いを聞いてもらった
高ければいいと言うものでもありませんが、高くても仕事があるデザイナーにはそれなりの理由があります。
30万円を支払い、アイデアを提出してもらった時は、身震いがして興奮したことを思い出します。
そして、そのロゴを作成したお店は、筆者が19年前に出店し、10年経営した後、お店ごと売却した飲食店で、まだ立派に営業しています。
料金はさておき、素敵な出会いがあり、この人だったらお願いしたいなと思える方が一番いいのは間違えないですね。
5. まとめ
例外もありますが、デザイナー、クリエイターの方は、右脳を使う、センス・フィーリングの人です。
一方、クライアントとなる経営者は、左脳を使う、合理的、理論的な人であることが多いです。
自分のお店のデザインを人に決められるなんて、そんな一番楽しいことなんで人にやらせるの? と考える経営者も中にはいます。
デザイナーに頼むという選択肢を選んだ人は、まずそのセンスはない、もしくは劣っているんだと自覚することが大切です。
プロである彼らに最大限のパフォーマンスをしてもらうことを優先しましょう。
それは、今後の店舗運営において、従業員に対する心構えでも同じことが言えるしょう。