真衣とマッチングしたのは、仕事の合間に無意識に画面をスワイプしていた時だった。
画面に並ぶプロフィールが、絵文字と店の名前で埋まっていた。
真衣の文だけ、白かった。
写真は、顔の半分が影になった投げやりな自撮り。
自己紹介文には「期待されるのも、期待するのも疲れました」とだけ書かれていた。
なにか引っかかった。
話してみたいと思った。
最初のメッセージからすぐに、真衣は刺してきた。
「私、性格悪いよ」
「そうなんだ」
「引かないんだ」
「引く理由がないからね」
「それが一番怪しい」
やり取りのたびに、僕を測ってくる。
否定しないと返すたびに、真衣がまた別の角度から来た。
メッセージのやり取りはなんとなく続いていた。
ふとこの前オープンしたカフェのことを思い出したから、誘ってみた。
「今週末、空いてる?オープンしたカフェに行ってみたいんだ」
「なんで?」
「ひとりだと行きにくいじゃん」
「別にいいけど」
それだけだった。
真衣は最初こそぎこちなかったが、しばらくすると話し出した。
店を変えながら、何時間も。
早い時間から会ったのに夜になっていた。
次の日も会うことになった。
待ち合わせ場所や店の提案は毎回僕からした。
「じゃあ、あの店にする?」
「そこでもいいけど、こっちのほうが良くない?」
「じゃあそっちにしようか」
「ううん、最初のでいい」
機嫌は良さそうだった。
正直めんどくさい、と思った。
でも口から出てきたのは「そんな時もあるよね」だった。
否定しないことが染み付いていた。
自分の思いが、外に出なくなっていた。
三回目のデートだった。
駅のホームを歩いているとき、真衣が転びそうになった。
とっさに腕を掴んだ。
「大丈夫?」
真衣は少し間を置いた。 握られた腕を見ていた。
それから「うん」と言った。
「ありがとう」と嬉しそうに笑った。
そのあとから、提案をそのまま受け入れることが多くなった。
連絡が増えた。会う頻度が上がった。
僕の好きな食べ物を覚えて、次のデートの場所も選んでくれた。
「今日は何もしない日にしよ。亮、疲れてる顔してる」
必要とされていた。 そう感じた。
ある夜、真衣が言った。
「亮がいないと、なんか不安なんだよね」
もう終電もない、真衣の荷物が増えていく。
嬉しくなかった。
嬉しくない理由がわからなかった。
必要とされている。
求められている。
それがずっとほしかったものじゃないのか。
でも喉の奥で、何かが詰まっていた。
純さんの声が浮かんだ。お前はまず、自分だ。
自分って、何だ。
真衣が僕に向き合ってくれている。
でも向き合われているのは、僕が作った僕だ。
否定しない僕。
折れる僕。
そんな時もあるよね、と言う僕。
本当の僕は、めんどくさいと思っていた。
その言葉は喉まで来て、戻っていった。
いるもの、いらないもの。
僕の中で、いらないほうが増えていく。