莉子と別れてから、しばらくアプリを開かなかった。
でも一週間が過ぎた頃、また開いていた。
誰かが自分をわかってくれるはずだ、という感覚が戻ってくるのに時間はかからなかった。
この頃には、誰かを誘うことに抵抗がなかった。
画面を見て、指が勝手に動く。
まず丁寧に挨拶。
次に相手のプロフィールから一つ拾う。
質問は一つ。感想は短く。
返信が来たら、相手のわかる質問をしていく。
相手のペースに合わす、返信を待たない。
冷めないうちにデートに誘う。
段取りも、会話の流れも、体が覚えていた。
それに合わない人は捨てていけばいい。
相手もそうしてる。
純さんから借りてきたものが、いつの間にか自分のものみたいになっていた。
岡本沙織、松本亜希、伊藤千夏。
三人と連絡を取り、会って、閉じた。
誰かとやり取りすることが、呼吸みたいになっていた。
沙織は返信が速い。
「既読ついてるのに返事くれないの、不安」そう言われたとき、僕は胸が動く前に、指が動いた。
安心させる文章を打って、絵文字を一つ足して、送った。
正解の返事だった。
沙織はすぐ笑った。
僕はその笑いを見ながら、次の予定の候補日を三つ考えていた。
亜希は返事が遅かった。突然タメ口になる日があった。
返信の時間を見て、こちらも時計を見た。
間隔を少し空けて返した。
タメ口が来たらタメ口で返した。
それだけだった。
千夏は夜中に電話をかけてきた。
急に会いたいと言った。
夜中の着信で、胃が先に起きた。
一度だけ「今日は無理」と返した。
翌日、何事もなかったように連絡が来た。
そういうものだと思った。