「なんとも形容し難い表情」から始まった、熊切和嘉という監督の話。
「なんとも形容し難い表情って、こういうのを言うんだね」旦那さんと「海炭市叙景」を観ていたときに、思わずそう呟いてしまいました。竹原ピストルさん演じる颯太が浮かべる、あの表情。悲しいとも、諦めとも、少しの希望ともつかない、名前のつけられない顔。しばらく二人とも黙ったまま、画面を見つめていました。今回は、そんな「言葉にできない表情」を撮り続けてきた監督、熊切和嘉さんについて書いてみたいと思います。北の風土と、生々しさ熊切監督の作品には、ある共通した空気があると感じています。それは、北の土地の匂いと、そこに生きる人間の生々しさです。「海炭市叙景」は、函館をモデルにした架空の街を舞台に、市井の人々の暮らしを描いたオムニバス作品。派手な事件が起きるわけではないのに、造船所をリストラされた颯太の背中や、家業のガス屋を継いだ晴夫の苛立ちから、目をそむけたくなるけど…。でも、なんだか情緒を味わいたくて、最後まで観てしまう…。「私の男」もまた、北海道の厳しい自然を背景に、血の繋がりを超えたある父娘の、誰にも言えない関係を描いていきます。「アンテナ」「莫逆家族」「#マンホール」「夏の終り」「MUKOKU」と、扱うテーマや舞台はそれぞれ違うのですが、どの作品にも共通しているのは、きれいごとで終わらせない眼差しだと思うんです。人間の弱さも、ずるさも、やるせなさも、そのまま置いていく。観終わったあとに「死にたくなる」ような重さではないのに、かといって単純な「重い」という言葉でも片付けられない、なんとも言えない読後感が残ります。竹原ピストルさんという存在熊切監督といえば、初期作品から起用し続けている竹原ピ
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