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『やさしさ迷惑26/100』

第26話前に立つ人を、一人にしない前話:田辺から「御社内で誰がこの提案を最終的に推進するのか」と問われた優作たちは、役割と責任の置き場所を言葉にした。全体推進は優作。先方調整は真壁。決裁者確認は佐伯。比較軸設計は桐谷。リスク設計は美月。品質レビューは黒川。だが黒川は言った。「本当に試されるのは、誰かが詰まった時です」と。翌朝。会議室には、いつもより早く全員が集まっていた。ホワイトボードには、昨日決めた体制図が残っている。全体推進:中村先方調整:真壁決裁者・確認項目:佐伯比較軸設計:桐谷リスク設計:相沢数字・提案品質レビュー:黒川文字だけ見れば、きれいだった。役割もある。責任もある。名前もある。でも優作は分かっていた。体制図は、人を支えない。人が詰まった時に、誰かが答えを奪うのか。それとも、横に立つのか。そこで初めて、体制が本物かどうか分かる。黒川が時計を見る。「始めましょう」いつもの声だった。「今日はリハーサルです。ただし、本番と同じつもりでやってください」佐伯の指が、資料の端を強く握った。優作はそれを見た。声をかけたい。大丈夫だと言いたい。でも、言いすぎるとまた奪う。だから、短く言った。「佐伯、詰まったら一回止めていい」佐伯が顔を上げる。「止めて、いいんですか」「いい。止まったことを隠すより、止まった場所を出した方が戻しやすい」佐伯は小さく頷いた。黒川が静かに言う。「止まること自体は問題ではありません。問題は、止まったことを隠したまま進めることです」その言葉に、佐伯の表情がほんの少し変わった。黒川の言葉は、まだ硬い。でも今日は、ただ切るだけではなかった。リハーサルが始まった。
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『やさしさ迷惑59/100』

第59話論点にしないでください前話:佐伯は、自分が傷ついた側に立つことで、美月を元の役割に戻そうとしていたことに気づいた。助けてほしかった。気づいてほしかった。止めてほしかった。けれど、その願いの奥には、自分を傷つけた人にも不自由になってほしいという醜さが混じっていた。佐伯は、傷ついた自分がいつも正しいわけではないことを見てしまった。怒りはまだあった。でも、もう正しさだけではなかった。最初に気づいたのは、佐伯だった。共有フォルダに、見慣れないファイルが上がっていた。感情表明時の対応フロー案.xlsx更新者は、黒川。時刻は、午前七時四十二分。佐伯は、画面の前でしばらく動けなかった。開くつもりはなかった。でも、ファイル名だけで中身が少し見えた気がした。自分の怒りが、何かの対応フローになっている。昨日まで会議室に残っていたものが、朝にはもう表になっている。佐伯はマウスを動かした。開かない。閉じる。また見る。そのファイル名は、見ないようにしても視界に残った。感情表明時の対応フロー案。怒っています。助けてほしかったです。落ち着いたという意味ではありません。その言葉たちが、誰かの手でセルに入れられている気がした。九時半。美月もそのファイルに気づいた。一瞬だけ、指が止まった。優作はその動きを見てしまった。見たくなかった。見れば、また意味を探してしまう。でも、美月の顔から何かが引いていくのは分かった。分かった、と言ってはいけない。それでも、そう見えた。十時の会議で、真壁が進行を始めようとした時、黒川が先に口を開いた。「先に共有したい資料があります」画面に、表が映された。感情表明時の対応フロー案
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