安心と、物足りなさと、期待が一気に押し寄せる
夕焼けに染まった橋の上に、二人の影がゆっくり伸びていく。風が吹いて、凪の髪がまた揺れた。昨日と同じ。でも今日は、止まらない。悠真は立ち止まり、凪のほうを向く。近い。息がかかるほど近い。「……昨日」その声が少しだけ震えていることに、凪は気づいてしまった。「言いかけたこと、あるだろ」胸がぎゅっと締めつけられる。「聞こえてた?」悠真は小さく頷く。「途中で止めたの、ずっと気になってた」沈黙。車の音が遠くを通り過ぎる。夕焼けの色が、二人を包む。悠真は視線を逸らしながら、ゆっくり言った。「俺さ……凪といると」一瞬、言葉が詰まる。「普通じゃいられなくなる」凪の心臓が大きく跳ねる。「静かにしてても、楽しくて」「離れると、気になって」「昨日も、帰ってからずっと」そこで止まる。凪の胸が苦しくなる。——続きは?——言って。——言ってほしい。でも悠真は、その先を飲み込んだ。代わりに、そっと言う。「……急がせたくない」その優しさが、凪の心を揺さぶる。安心と、物足りなさと、期待が一気に押し寄せる。「凪が嫌じゃなかったら」「こうして、少しずつでいいから」凪は、ぎゅっと拳を握る。——少しずつなんて。——もう十分、好きなのに。でも言葉にはできなくて、ただ頷いた。「……うん」その返事を聞いて、悠真はほっとしたように笑った。その笑顔が、凪の胸を締めつける。恋はもう始まっている。なのに、まだ名前をつけてもらえない。だからこそ、こんなにも苦しくて、甘い。橋の上で止まった夕焼けは、ゆっくり夜へと変わっていく。二人の関係も、静かに、でも確実に進んでいた。
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