絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

1 件中 1 - 1 件表示
カバー画像

昨日と同じはずなのに、少しだけ、目の奥が違う

街灯の下を通り過ぎるたび、影が少し伸びて、また元に戻る。凪は歩きながら、スマートフォンを握った指先に、まだ残っている温度を感じていた。——見なかった。——返さなかった。それは、逃げじゃない。今は、そう言い切れる。立ち止まって、小さく息を吐く。静かな住宅街。誰かの家の窓に、明かりが灯っている。当たり前の夜が、当たり前に続いている。凪は、もう一度だけ空を見上げる。雲の切れ間に、星がひとつ。——明日、会う。それだけで、胸の奥が、少しだけ引き締まった。今日の夜に、無理に言葉を足さなくてよかった。そう思える自分が、ほんの少し、頼もしい。スマートフォンをバッグにしまい、歩き出す。“待ってる”と言ったのは、相手を縛るためじゃない。自分が、次の時間を選ぶためだった。玄関の前で立ち止まり、凪は深呼吸をひとつ。夜は、ここで終わる。でも、物語は終わらない。静かに、でも確かに、次の朝へとつながっている。凪はドアを開けて、いつもより少しだけ、やわらかな気持ちで、家に入った。布団に入って、電気を消しても、すぐには眠れなかった。凪は天井を見つめながら、呼吸のリズムを整える。スマートフォンは、バッグの中に入れたまま。取り出さない、と決めた。——今日は、ここまで。それが、自分を大事にする選択だった気がする。目を閉じると、カフェの窓際の席が浮かぶ。湯気。夕方の光。向かいに座る、悠真の横顔。言葉は少なかった。でも、足りなかったわけじゃない。凪は、「また来たい」と言えた自分を思い出す。あの一言で、時間はちゃんと前に進んだ。カーテンの隙間から、夜の街灯の光が差し込んでいる。その明かりが、少しずつ遠のいていく感覚。やがて
0
1 件中 1 - 1