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言うの?言わないの?

自転車のベル音が、思ったより遠くで鳴った。それでも、二人の間に落ちた沈黙は、簡単には消えなかった。凪は、橋の欄干の向こうを見つめたまま、息を整える。さっき、ほんの一瞬だけ。悠真が何かを言おうとした気配が、まだ胸の奥に残っている。——言わなかった。それだけなのに、心が追いつかない。「……寒くなってきたな」悠真の声は低くて、いつも通りだった。まるで、何も起きなかったみたいに。凪は小さくうなずく。その動きが、自分でも驚くほど慎重だった。二人は並んで歩き出す。靴底が橋を叩く音が、一定の間隔で続く。距離はさっきと変わらない。近いまま、触れないまま。凪は思う。もしあのとき、ベルが鳴らなかったら。もし、悠真が一歩下がらなかったら。——それでも、たぶん。言葉は、出なかった気がする。悠真は横目で凪を見る。ほんの一瞬だけ。そして、また前を向く。守るみたいに。逃げるみたいに。橋を渡り切ったところで、夕焼けが少しだけ色を変えた。オレンジが、ゆっくりと薄くなる。何事もなかったように、日常は戻ってくる。でも、確かに何かが残った。言葉にならなかった感情だけが、二人の間を、まだ行き来していた。
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