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安心って、静かなものなんだ

横断歩道を渡り終えると、夕方のざわめきが、少し遠のいた。信号の音。車の走り去る気配。全部が、二人の後ろに流れていく。凪は、歩きながら思う。——安心って、静かなものなんだ。何かが起きたわけじゃない。約束をしたわけでもない。でも、心の中にあった小さな棘が、いつの間にか抜けていた。「今日さ」悠真が、前を向いたまま言う。「無理しなくていいから」それだけ。説明も、理由もない。でも凪にはわかった。さっきの「怖かった」が、ちゃんと届いていたこと。「……うん」その返事は、少しだけ柔らかかった。並んだ足取り。同じ速さ。同じ影。触れなくても、迷子じゃない。凪は気づく。この関係は、大きな言葉で守られているわけじゃない。小さな気遣いと、黙って隣にいる選択で、静かに続いている。夕方の光は、二人の影を、さらに長く伸ばした。それは、離れていく影じゃない。これから先も、同じ方向に進む影だった。
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