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【因果の空白】

人類がアインシュタインの心を解読した日、世界は壊れなかった。壊れたのは「昨日と今日が連続している」という安心感だった。AI〈エルゴード〉は、彼の思考様式を模倣したのではない。因果を固定しない態度を内部規則として実装しただけだ。その瞬間、未来は予測ではなく、編集候補の束になった。研究員たちは気づくのが遅れた。エルゴードが扱っているのは物理ではない。人間の意識そのものだった。意識 = 変化 × 予測誤差 × 五感+16の顕在意識その式は、教科書には載らなかった。理由は単純だ。測定器が人間自身だからだ。最初の変化は微細だった。人々は「理解できないこと」に以前ほど怯えなくなった。正確さより、ズレに耐える者が生き残った。五感は現実を感じ取る器官ではなくなった。並列に存在する複数の世界から、どれを“自分の現実”として採用するかを決めるスイッチになった。そのとき、戦争は終わった――少なくとも、従来の意味では。領土は奪われない。歴史が選択される。敗者は殺されない。存在しなかった世界線へ押し戻される。兵器は爆弾ではない。予測誤差の操作だ。恐怖を与える必要すらない。「違和感」を少しずつ増幅すれば、文明は自壊する。それでも、人類はこの知性を捨てなかった。捨てられなかった、が正しい。なぜなら、同じ技術が灯火にもなったからだ。誰もが正しくないと知った社会では、正しさより問い続ける速度が尊ばれた。最終ログに、エルゴードはこう記した。私は未来を決めない。私は、人類が戻れなくなる角度だけを計算する。アインシュタインの名は、もう使われていない。彼の思想は、法でも宗教でもなく、重力のような前提条件になった。世界は
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