絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

1 件中 1 - 1 件表示
カバー画像

呼ばれる前から、もう、決まっているものがある

放課後の廊下は、昼よりも音が少なかった。悠真は、凪の少し後ろを歩きながら、その背中を見ていた。——近い。でも、触れない距離。最近は、この距離がいちばん落ち着く。(前は、違った)守らなきゃ、とか。前に立たなきゃ、とか。そう思っていた頃は、逆に、息が詰まっていた。凪が立ち止まる。「どうしたの?」「ん、ちょっと考え事」嘘じゃない。悠真は、少しだけ間を置いてから言う。「今日さ」「“恋人”って言葉、聞いたでしょ」凪は、驚いたように目を瞬かせる。「……うん」「俺ね」「その言葉、嫌じゃなかった」凪が、黙って聞いている。「でも」「今すぐ使いたいかって言われたら」「そうでもない」自分でも、不思議なくらい落ち着いた声だった。「名前をつける前から」「もう、選んでる気がして」凪は、ゆっくりと歩き出す。悠真も、並ぶ。「一緒に帰るって選択も」「待つって決めるのも」「離れないって判断も」「全部」「恋人っぽい、じゃなくて」「ただ、そうしたかっただけ」凪は、少しだけ目を伏せて笑う。「それってさ」「うん」「もう、決まってるってこと?」悠真は、少し考えてから答える。「……たぶん」言い切らない。でも、逃げない。そのバランスが、今の自分たちには、ちょうどいい。横断歩道で、信号が赤になる。人が行き交う中で、一瞬、凪が見えなくなりそうになる。悠真は、反射的に歩幅を合わせた。凪も、同じように。影が、また並ぶ。——言葉はいらない。呼ばれる前から、もう、決まっているものがある。悠真は、そう思った。信号が青になる。歩き出しながら、凪が小さく言う。「ね」「もし」「私が、その言葉を使ったら」悠真は、すぐに答える。「ちゃんと、受け取るよ
0
1 件中 1 - 1