学校とは、逆方向へ
翌朝。凪は、制服に袖を通したまま、玄関で動けずにいた。靴は揃えられている。カバンも持っている。時計の針は、もう何度も確認した。——それでも、足が前に出ない。昨日のことが、頭の中で何度も再生される。「かわいそうだよね」「三條くんに告白されて 調子に乗ってるんじゃない?」「悠真に泣かされたって本当?」誰が言ったのかは、もう分からない。でも、全部が刺さった。凪は、膝の上で手をぎゅっと握る。(私が、悪いのかな……)そう思った瞬間、スマホが震えた。画面に表示された名前を見て、胸が、きゅっと縮む。——悠真。『無理なら、今日は来なくていい』短い文章だった。でも、その一文だけで、凪の中で張りつめていた糸が、音を立てて切れた。涙が、ぽろぽろ落ちる。『学校は、 行かなきゃいけない場所じゃない』『少なくとも、今の凪にとっては』続けて届いたメッセージ。『俺が迎えに行く』『行きたい場所があるなら、 そこに一緒に行こう』凪は、スマホを胸に抱きしめた。——「行かなくていい」その言葉を、誰かに初めて言われた。しばらくして、玄関のチャイムが鳴る。ドアを開けると、制服姿の悠真が立っていた。何も聞かない。何も責めない。ただ、いつもより少しだけ、真剣な目で凪を見ている。「……行く?」その一言だけ。凪は、小さく頷いた。学校とは、逆方向へ。二人は、静かな道を歩き出す。風が冷たくて、でも、なぜか心は少しだけ軽かった。——逃げたんじゃない。——選んだんだ。凪は、そう思えた。そしてその背中を見ながら、悠真は心の中で決めていた。(もう、凪を一人にしない)嵐の中に立つなら、自分が、盾になる。それが、恋だと気づいたのは、
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