絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

1 件中 1 - 1 件表示
カバー画像

タラを量っていた冬のこと

高校生のころ、冬が始まる頃になると、駅前の魚屋でアルバイトをしていました。制服の上に白衣を羽織り、タラのぶつ切りを量り売りしていた日々です。時給は650円。学校が終わると、湯気の立つ店先に立ち、元気なお姉さま方に「200!」「100!」「300!」と次々声をかけられ、その声の勢いに押されるように、ひたすらタラを袋に詰めていました。魚屋では、なにより“声”が大事でした。「ぃらっしゃいませ」「ぁりがとうございました」お腹からしっかり声を出すように、と大将(店長さんのあだ名)に言われて、ときどき白い長靴の軽いツッコミが飛んできたのも、今では懐かしい思い出です。年末の30日・31日は、まさにお祭りのような忙しさでした。お姉さま方の目にはいつも以上に気合いが宿り、刺身は次々と売れていき、つまを作る手も追いつかないほど。ぐるぐると機械を回しながら、「こんなに働けるものなんだなぁ」と思ったことを、そして、意識が遠くなっていたことを、ふと覚えています。そして今日。駅ビルの魚屋さんに立ち寄ってみると、昔とは違い、静かに並ぶパックの切り身がきれいに光っていました。あの頃のような「らっしゃい!」の声は聞こえません。でも、タラの切り身を手にしたとき、高校生の私が立っていた冬の店先が、ふわりと心に戻ってきました。仕事って、形は変わっても、どこかにその時々の“あたたかさ”が残るものですね。
0
1 件中 1 - 1