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あたしは社畜であんたは天狗

 人間はなんでもすぐ忘れてしまう。  この世の春を謳歌し、溢れるカネに任せて、自分たちにできないことはなにもない、この繁栄は永遠に続くのだと、信じて疑っていなかったのが、つい二十年ちょっと前くらいである。  その頃、オフィス街では五時きっかりになると大量に人が吐き出され、そいつらはあちこちの繁華街に我先にと遊びに繰り出していたものだ。  だが、今はどうだ。  五時くらいでは、誰も仕事から手を放すことができない。  最低あと一時間、場合によっては三時間以上、話に聞くブラックとかいうのに捕まると、帰宅自体がぜいたく品だといわんばかりに……連中は、働かされる。  夜陰を圧する煌々としたオフィス街の明かりを、あたしは上空はるかから見下ろす。  つまらなくなったな、と夜風に独り言ちる。  こんなすり減った連中を、ちょっと前みたいにからかっても、余裕がないせいか、そう面白い反応が返ってくることはまれで。  第一、覇気がない、覇気が。  明日にも自分の国が滅亡するかのような悲観に苛まれたニンゲンどもをさらにいたぶって悦に入るほど、あたしは悪趣味じゃないんだ。  それでもまあ、ニンゲンにちょっかいを出すのがやめられないのが、あたしの性分で。  せめて、何か面白い反応を返してくれる奴を求めて、虹色の翼をはばたかせる。  まあ、この翼に限らず、あたしが望まない限り、ニンゲンにはあたしの姿は見えないんだけど。  夜風に逆らうように上空を流していると、ふと、眼下に気になる光景を見つけた。  背中を丸めて急ぎ足の、一人の若い女。  それだけなら、比較的マシな時間に帰路に就くこ
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つつほ町怪奇譚

 ひいおばあちゃんが亡くなった。  九十二歳の、大往生だった。  ◇ ◆ ◇  ひいおばあちゃんは、私たち一家と同居していた。  こう言うと、介護が大変だっただろうなんて思われそうだけど、ひいおばあちゃんは最期の時の直前までぴんぴんした元気な老人だった。  庭いじり、今でいうガーデニングが趣味で、うちの庭を全面的に整えていたのはひいおばあちゃんだ。  ひいおばあちゃん亡きあと、あのそこそこ広くて小さな池まである庭をどう整えていくか、正直家族の間では悩みの種だった。  ひいおばあちゃんが亡くなる前日も、いつものように庭いじりしていたらしい。  特にどこが痛いとかだるいとかいうでもなく、全く普通の様子だったから、誰もが油断していた。  私も出勤した後の時間になって、いつもは早いひいおばあちゃんがなかなか起きてこないことに、お母さんが不審を抱いた。 「おばあちゃん、どうしたの?」  そういってベッドにかがみこんだお母さんは。  その時になってようやく、ひいおばあちゃんが息をしておらず、とっくに冷たくなっているのに気付いた。  まあ、その後のごたごたは省略しよう。  みんな、身近な人が亡くなったことがあれば、なんとなく予想がつくと思う。  通夜、葬式を終え、遠方の親戚も帰ったその晩。  あたしたちは、ひいおばあちゃんの部屋に集合していた。  要するに、ささやかな「形見分け」をしようというのだが。  おばあちゃんは、割と古いものを大事にする人だったから、色々珍しいものが残っていたのだが。  明らかに芸術的価値の高い花瓶、孔雀石の数珠、掛け軸に、えらくレトロなアクセサ
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