小さな焼鳥屋にて、思う
俺が好きな焼鳥屋さんは、カウンター席が10人と座卓が4席。
こじんまりとしたちょっと古くて小汚い店には、たくさんの人生が流れ込んでくる。
カウンターの端っこで飲んでいると嫌でも他のお客さんの話し声が聞こえる。
隣の席はもちろん、2m離れた正面の席のお客さんの声までも。
会社の愚痴、
お気に入りのスナックの女の子、
過去の武勇伝、
もっとこうしろという素人のゴルフ談義。
夏は蒸し暑く、
冬は足元がとにかく寒い。
トイレはいまだに和式便所。
美味しい焼き鳥と、
クセのあるマスター。
レバーは中がほんのりと赤く、
かしらは弾力がよく、
つくねはホワンと口の中で優しさが弾ける。
お通しで出してくれるぬか漬けが
余分な脂を緩和して、
お酒とともに今日の疲れを洗い流す。
背中で大きな花火の音を聞きながら、
儚く散った音のない世界で、
俺はまた一人なんだと実感する。
焼酎にただ梅のエキスを入れた
晩酌には向かない酒が、
妙に上手い。
アルバイトは常にいても、
50年来他の誰にも焼き鳥を焼かせることのないマスター。
平気で煙草を吸いながら
お客さんとでかい声で笑い合う。
時代遅れといえばそれまでだが、
「嫌なら来なくていい」
という強気の姿勢。
焼鳥屋は美味しい焼き鳥を出すことが正義。
そんなちょっと歪な正義に
時折触れたくなる。
「マスター、お愛想して」
この言葉はいつも少しの勇気が必要だ。
何年も通っているが、
ひと串いくらで、
ビールが一杯いくらなのかを知る客はいない。
お勘定の金額で、
マスターにとっていいお客であったかを知る。
今日は安く済んで良かった。
0