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☔ 短編恋愛小説 / ♪ 恋のしずく /

/ 恋のしずく /雨の匂いがすると、いまでも濡れた葉の青さを思い出す。あの人が、その葉を写していた横顔も。大学を卒業した春から、もう何年も、私は駅裏の小さな花屋で店番をしていた。間口の狭い店で、雨の日はとりわけ静かだ。切り花は湿気に弱く、長雨がつづくと花弁の縁から茶色く傷んでいく。だから雨の日は、店先のバケツを軒の内へ寄せて、客の少ない時間を、私は花の世話だけで過ごした。水やりのあとが、好きだった。霧吹きで葉を湿らせ、バケツに新しい水を張る。しばらくすると、葉先に残った滴が、重さに耐えかねて、ひとつ落ちる。またひとつ。タイルの床を打つその間隔を、私は手を止めて数える癖がついた。三つ数えるあいだに、たいてい次の滴が落ちる。その人に気づいたのも、雨の日だった。店の軒先、ちょうど雨のかからない乾いた一画に、その人は立っていた。傘を畳んで、片手に小さな黒い手帳。先の細い万年筆で、何かを描いている。花を買うでもなく、ただ、店先のバケツと手帳を交互に見ていた。最初は、不審に思った。買わない人。けれど何日かして、彼が描いているのが、雨に濡れた花だと分かった。花弁を伝う水の筋。葉先で膨らんで、いままさに落ちようとする滴。彼は同じものを、飽きずに写していた。声をかけられないまま、季節がひとつ過ぎた。彼は雨の日にだけ来た。晴れた日は、一度も。私はいつからか、軒先のいちばん見やすい場所に、雨に強い花を選んで並べるようになっていた。彼が描きやすいように。そんなこと、頼まれてもいないのに。ある夕方、雨が急に強くなって、彼が慌てて立ち去ったあと、軒先のバケツの陰に、あの黒い手帳が残されていた。濡れないよう
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