日常はこうして崩れ去る01

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 毎日退屈で、くだらない。にこにこと笑って話を合わせていれば、誰も自分の本音になんて気づかない。人間はそういう生き物だ、だから信じられない。

(いっそ、学校爆発とかして、閉じ込められたらその人の本音とかわかるかもしれないな)

 授業中、ぼぉっと窓の外を見る。教師の声は彼の耳に入ることなく、教室のBGMとして流れ続けていた。何も変わらない日常、それをただ享受する自分にも腹立たしいとさえ彼は感じていた。何かがほしい、何か刺激的な何かが。

「どーまくん、聞いてるの、どーまくん!」

 はっと顔を上げると前の席のサニ子がプリントを振りかざしながらこちらを見ていた。どうやら授業でプリントが配られたらしい。

「ご、ごめん。ちょっとぼぉっとしてて」

 そう言ってどーまはサニ子のプリントを受け取る。その時だった。
 キィィィィンと一瞬にして大きな耳鳴りがクラス全員を、いやその地域一帯にいる人間を襲った。皆耳を押さえ、苦しそうにわけがわからないといった顔をしている。

(何だ? 何かの電波か?)

 窓を見上げた刹那、ものすごい勢いでナニかが近くの山に落ちた。どぉぉんと山の一部が崩れ、震度4くらいの地震がそのあたり一帯を揺らした。
 揺れが収まって、皆不安そうな顔で窓に視線を向ける。隕石でも落ちてきたのだろうか。あの辺りは山しかないから被害は少なそうだが、現場はどうなっているのだろう。

(一体何が……)

 この時、好奇心という一滴の水が、どーまの枯れ果てていた心に零れ落ちた。退屈な日常が壊れていくような気がする、そう思うとぞくぞくとどーまの背筋に電流が走ったのだった。
 次の日、落ちてきたのは円盤型のUFOであることがわかった。山は封鎖され、調査員しか入ることができない。連日記者などが山付近を張っているがすぐに見つかって摘まみだされているようだった。

「UFOってまぢかよ、見に行ってみたいよなぁ」

 学校では、UFOの話題で持ちきりだった。来る日も来る日もその話題ばかりで、どーまは最初はわくわくしていたのだが、どの話も想像だけで、実際見に行った者は誰もおらず、段々聞くのも煩わしくなってきていた。

「ねぇ、うちの兄貴がさ秘密の抜け道見つけたらしいの。今夜山に入るから、一緒に行かない?」

 佐山亜子がにししと笑ってクラスメイトに提案しだした。佐山は目立ちたがり屋で、自分達が持っていないような情報を口にすることで、常にクラスメイトから注目を浴びている女子だ。

「でも危なくない?」
「大丈夫だって、いざとなれば逃げればいいのよ」

 その言葉に、次々とクラスメイト達は自分も参加したいと佐山に声をかけはじめる。

「どーま、お前も行く?」

 友人の多賀明人が誘ってくれたので、うんとだけ答える。

(どうせ、山の入り口で追い返されるのがオチだろうな)

 そう思ったが、実際山の中までは入れたらそれはそれでラッキーだし、仲間の手前付き合いというものがある。どーまはにこにこと笑顔を貼り付けて楽しみだなぁと呟いておいた。

「サニ子はどうする?」

 前の席のサニ子にも、佐山は声をかけた。

「本当にはいれるのかしら。でも気になるから行くわ」
「了解」

 サニ子も参加すると聞いて、どーまはにこにこするのをそっとやめた。

「ねぇ、サニ子」
「何?」
「珍しいね、君がこういった行事に参加するのって」

 サニ子は気が強く行動力のある女子であるのは、小学校から一緒のためどーまはよく知っていた。しかし、群れたり信ぴょう性のない企画には参加しないイメージがあったのに、今回参加を決めたのを、どーまは不思議に感じていた。

「別に? なんか面白そうだし」
「ふぅん」
「……一人断って悪目立ちするのも嫌だしね。女の友情なんて、そんな簡単な所から崩れていくのよ」

 そう言う彼女をどーまは半笑いで見つめた。いつもにこにこと笑顔のマスクを被っているどーまだが、サニ子の前では素でいられる。

(サニ子がそういうんだったら、そうなんだろうな)

 どーまはふわぁとあくびをしながら、次の授業の用意を始めた。

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