日常はこうして崩れ去る02

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 夜になり、集合場所へ行く。結構な人数が集まっており、佐山の兄はとても迷惑そうな顔をしていた。

「おま、こんな大人数って聞いてないぞ!」
「だってぇ、他のクラスの子も噂を聞いて来ちゃったんだもん」

 ひそひそ声で怒る兄に対して、佐山はにこにこと笑顔で返している。兄ははぁとため息を吐くと、どうなっても知らんからな、自己責任だからな!と言って秘密の抜け穴へと向かっていった。その後ろをぞろぞろと高校生達が続いていく。

「何か夜、出歩いているってだけでドキドキするな!」

多賀は興奮したようにさっきからずっと喋っている。どーまは適当に相槌を返しつつも、その言葉は全て耳に入る前にシャットダウンしていた。

「今から山に入る、いいか、今日見たことは誰にも内緒だからな!」

 はーいと返事を数人返していたが、きっとこの抜け穴の噂は明日瞬く間に広がっていくだろう。体勢を低くして抜け穴を通っていくと、調査員の声が頭上で聞こえた。今日はもう撤退するらしい。

「タイミングよすぎるだろ」
「狙ってきたんじゃないのか?」

 調査員が撤退準備を見つつ、抜け穴を通っていく。すると、先頭の方からおぉぉぉ!という大きな声が聞こえてきた。

(きっと落下物に辿り着いたんだ!)

 どーまは這うスピードを早め、抜け穴を通り抜けた。するとそこには立ち入り禁止の看板に囲まれた銀色のUFOがあった。

(ほ、本当にUFOだ。おもちゃ? いや、写メ撮っちゃだめだろ、兄貴めっちゃ怒ってるな、誰も言う事聞いてないし)

 思わずUFOの写メを撮り、瞬く間に拡散していくクラスメイト達に、佐山兄は真っ青になりながらやめてくれぇぇと声の音量を落として叫んでいた。

「だから嫌だったんだ!ガキどもを連れていくのは!!怒られたらお前らのせいだからな!」

 佐山兄はひっそりと楽しみたかったらしい。だが、それは妹に自慢した時点で不可能だと何故わからなかったのだろうか。

(妹を信じたんだな。たぶん毎回そうなんだろうな、バカだよなぁ)

 どーまも一応写メを撮ろうとした。その時、ふとサニ子が一人移動しているのが視界の隅に入った。

「サニ子? どうしたんだ?」

 サニ子を追いかけると、彼女は首を傾げた。

「あっちからうめき声がしたような気がして」
「うめき声? そんなの僕には聞こえないけど……いや、するな」

 じっと耳を澄ましてみると、微かにうめき声が聞こえた。声のする方へ行ってみると、急な傾斜になっていて、土に血の跡が点々とついている。

「何かいるのか?」
「大丈夫ですかー?」

 スマホのライトを頼りに辺りを照らすが何もいない。

「た、たすけてぇ」

 キィィンと小さく耳鳴りがした。耳を押さえながら、耳鳴りが強くなる方向へと歩き出す。するとそこには右足を怪我した人が倒れていた。

「大丈夫ですか? 救急車を」

 スマホを取り出すと、サニ子に待ってと止められた。そしてよく見てと言われたのでライトを向けてじっと観察する。

「あ……」

 そこに倒れていたのは人間ではなく、昆虫のような頭をした人型だった。

「き、気持ち悪い!」
「え?え?もしかして宇宙人?」

 二人で立ち尽くしていると、向こうはどーま達に気づき何かジェスチャーしている。

「怪我してるわ、どうしよう」
「危険かもしれない、僕達だけで近づくのは危険だ」
「っていうか、近づきたくない。何かされそう」
「信用できないよね」

 二人はそっと立ち去ることにした。自分達でさえ見つけることができたのだ、調査員が発見し、彼は調査対象となるだろう。

(見出しは宇宙人発見!かな)

 そんな事を思っていると、宇宙人は焦った様子でサングラスを2つ投げつけてきた。

「こんな暗い場所でサングラス?」

 どういう意図で投げつけてきたのだろうか。

(これをつけたら会話でもできるのか?まさかね)

 どーまとサニ子はサングラスを拾い、装着してみた。別に何か不思議な映像が見えるわけでもなく、相変わらず宇宙人の言語はわからない。

「ん?ナニコレ、頭の上にふきだしが見える」

 宇宙人の頭の上には助けてくれ!と書かれたふきだしがたくさん浮いていた。ふとサニ子の頭の上を見ると、彼女の上にもふきだしが出ており「早く帰りたい」とだけ書かれていた。

(人の要望がわかるサングラス?)

 宇宙人からはひたすら助けて、痛い、酷いことしないから助けてといった言葉が浮かび上がっている。どーまは自分にはどんなふきだしが浮かび上がっているんだろうと興味が沸いた。

「ねぇ、サニ子。僕に何かついてない?」
「ふきだしが……どーまくん、わくわくしてるんだね。ふきだしがそう言ってるよ」

 このサングラスは人の思っていることをふきだしにして見る事ができる、どーまは確信した。

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