【第8回】何度も同じ間違いをする知識の定着方法

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法律・税務・士業全般
前回も短答式試験にスポットを当て、正答率80%以上の問題に絞って学習すること、『実力発揮率』という考え方で分析する方法について説明しました。
今回も、短答式試験にスポットを当てつつ、論文式試験とセットで考える方法論についてお話します。

1:知っているのに何度も間違える肢は、工夫して覚え

前回(第7回)、短答式の問題演習をした際には、間違えた肢について、二種類の×を付けてチェックすることを説明しました。
そのうち、「×-引」は、「その肢の知識はあったが、正解のように見えてしまい迷った結果間違えた」ものでした。

いかにして「×-引」の誤りを減らせるかがカギとなりますが、たいていの場合、解説を読めば「なるほど」とは思うものの、何度解いても似たような間違いを繰り返すことが多いです。

このような状態に陥っている問題は、何らかの理由で知識が定着しにくい状態に陥っています。
したがって、「×-引」に関する知識は、自分にとって定着させにくい知識と捉えて、対策も工夫する必要があります。

以下では、私が受験時行っていた方法や、法科大学院での受験生の分析を踏まえて、認知心理学等の科学的な知見も加味した方法を紹介します。

もっとも、記憶の定着には個人差が大きく、絶対的な方法があるわけではありません。
したがって、自分に合った方法を見つける過程が必要となりますので、焦らずに勉強を続けていきましょう。

なお、対策方法に悩む方は、個別相談も受け付けておりますので、悩みをうかがい、一緒に対策を考えます(リンクは、末尾をご確認ください)。

2:正解への道筋の書き込み(「実力発揮率」を上げるための手法)

「正解にたどり着くための道筋を書き込む」という方法があります。

方法はいたってシンプルで、自分が間違えた理由や、その肢を正解するためのポイントや論理の道筋などを、一言で良いので、問題集や解説に書き込むというものです。

この方法は、私が受験時代に行っていた勉強法です。
まず、前回(第7回)紹介した通り、模試や答練を受けた際には、各肢に印(☆、〇、△、×-知、×-引)を付けます。
☆の付く肢のうち、×や△を付けた肢について、解説書に一言書き込み、ときどき見直していました。
なお、☆が付いていない肢(正答率80%以下の問題)については、正解出来なくても構わない肢なので無視します。

この方法は、「自分が産出したものは記憶に残りやすい(産出効果:Generation Effect)」という認知心理学の知見を利用した方法ですが、皆さんも経験的にわかるのではないでしょうか。
例えば、暗記したいものは書いて覚えたり、走り書き的に残したメモの内容を意外と覚えていた、というような経験があると思いますが、それらも一種の産出効果によるものです。

解説を読むと理解出来たとしても、自分の言葉で説明しようとすると、意外と出来なかったりするものです。
メモ程度で良いので、間違えた理由や正解にするためのポイントが一言が書けるだけで、自分の弱点や対策が浮き彫りになります。

また、この方法は、各テーマや体系的な整理にも寄与する側面があります。

3:ミニ論文式試験として解く

短答式試験と論文式試験を一体的に勉強する理由が、ここにあります。

まず大前提として、試験形式が異なろうと、同じ科目である以上、土台となる知識や考え方に違いはないので、あえて分けて捉える必要がありません。

また、短答式と論文式を分けて勉強しようとすると、実質的には3科目余分に勉強しているのと変わりません。むしろ、短答3科目は「短答式の勉強で論文式の勉強も済ませる(あるいはその逆)」と戦略を立てる方がお得です。

そして短答式試験も、論文式試験で問われていることと構造的には変わりません。特に、刑法と憲法はその傾向が強いので、なおさら一体的に捉えるべきです。

刑法について

論文式試験では、結局のところ「誰に何罪が成立するのか」が問われており、ご存じの通り「構成要件⇒違法性⇒責任」の流れで検討します。
設問によっては、そのうち特定の一部分が問われることもありますが、問題の構造は変わりません。
短答式試験も同様で、ある特定の一部分の知識や論点が問われる問題が大半です。

論点に対する考え方や解釈について、論文式試験では、問題文で指定された立場に従って検討する問題がありますが、これは短答式試験でも同様であり、形式が選択式になっているだけです。
短答式試験では『判例の立場に従って』検討する問題が多いですが、解釈や立場が指定される場合は、問題文の指定に従って検討すれば良く、論文式試験と変わりません。

問題文の事実に関して、論文式試験では事実が複数与えられるため、規範や事実の評価の仕方によって結論が異なります。
一方で、短答式試験の場合は、答えが「一義的に決まる」よう設計されています。規範は問題文で指定され、結論が明らかに一つに定まるような形で事実が与えられるため、論文式よりもわかりやすい設定になっているだけです。

以上の通り、問われ方に違いはありますが、基本的な構造は同じであるため、解答方法も統一すべきです。
刑法は短答3科目の中で一番「覚えゲー」的に解いても点数が取れてしまう側面があるため、短答式では暗記問題として解く受験生をたまに見かけますが、暗記的に刑法を解いている受験生は、短答の成績は良いのに論文式になると成績が悪いという傾向が散見されます。

短答式試験についても、論文式試験と同様、「構成要件⇒違法性⇒責任」という王道の流れで「誰に何罪が成立するのか」という視点を意識して検討するようにしましょう。

憲法について

憲法も刑法と同様です。
まず人権ですが、憲法は刑法よりもわかりやすく、検討の方向性は『最高裁判所の判例の趣旨に照らして』と指定される問題が大半です。

論文式試験では、自由権の場合は三段階審査の枠組みに従って、「権利性(補償範囲)⇒制約⇒正当化」の流れで検討することが暗黙の了解となっていますが、短答式試験では、そのうち特定の一部分に着目して問われています。しかも刑法よりわかりやすく、考え方や解釈の仕方は、上記の通り「最高裁の考え方」ほぼ一択です。

しかし、憲法の解説を見ると、見たこともない地裁判例や高裁判例が示されて説明されていることがありますが、そのような些末な知識を覚える必要は一切ありません。
問題文に「最高裁判所の判例の趣旨に照らして」とあるのですから、そもそも些末な裁判例を覚えていることを司法試験は要求していません。
最高裁の考え方を踏まえて、各基本権のイメージや相場観が掴めていれば、解説で示されている裁判例を知らなくとも、自ずと答えは導けます。

論文式試験も含めてですが、「各基本権のイメージや相場観を持つ」ことが何よりも重要ですので、この意識を持って勉強するようにしてください。
この点を意識しておかないと、短答式試験では、解説で示されるような「裁判例まで覚えておかないといけないのか」と絶望的な気持ちになりますし、論文式試験では何を書いて良いかわからず、「『ひらめき』や『センス』が必要なのではないか?」と諦めモードになってしまいます。
もちろん、そうではありません。(なお、憲法のイメージや相場観に関しては、別の機会にお話ししたいと思います)。

一方で、統治に関しては、予備試験では論文式でも問われることがありますが、司法試験では統治が論文式で出題されることはまずないため、論文式試験と同様に捉えることは難しいです。
したがって、統治の問題に関しては、制度を理解し、各条文の内容を優先順位をつけて整理して押さえていくという、オーソドックスな学習スタイルになります。

統治に関しては、理屈ではなく、「知っているか否か」で決まるテーマが人権より多いため、こういったテーマについては、ある程度、演習量を重ねて覚えざるを得ません。統治が苦手という受験生の話を聞いていると、人権に追われて手が回っていないことが原因という場合も多いです。

「理屈で覚えられないテーマもあるんだ」と割り切って、しっかりと時間を確保して取り組みましょう。

4:民法は、刑法・憲法以上に工夫する必要がある

民法特有の特徴

一方で、民法は、刑法や憲法とはやや異なる側面があります。
知識や理解の仕方は論文式と変わらないものの、短答式特有の問題の出題範囲が広く、問題の問われ方的にも、どうしても論文式と同じように捉えて処理するには難しい側面があります。

加えて、同じような概念が各制度に跨って横断的に現れやすく、刑法や憲法よりも習熟するのに時間がかかり、かつ、他の肢に引っ張られやすいのも民法の特徴です。
例えば、「第三者」保護に関しては、物権変動、代理、時効、債権・契約、相続など、様々な制度に規定されていたり、規定されていなくとも論点として問題となったりする等、制度を跨って横断的に現れます。それゆえ、各制度ごとに理解を要するうえ、民法全体としても体系的に整理しておかなければ、短答式としても論文式としても問題が解けません。
刑法や憲法でも横断的に現れる概念はありますが、民法の方が顕著であり、範囲も広い分、やはり混乱しやすく習熟には時間がかかります。

解く問題は、刑法・憲法以上に絞る

以上のような特徴から、民法は問題集を1周終わらせるだけでも時間がかかりがちです。
したがって、前回(第7回)も述べた通り、解く問題にはメリハリを付けましょう。全部の問題を満遍なくこなすことは、却って習熟を遅らせます。

解く問題は正答率80%以上の問題のみに絞り、かつ、何度も間違える問題のみを何度も解くようにしましょう。

短答式の問題を一時解かない選択肢もある

一方で、冒頭でも述べた通り、何度も間違う問題に関する知識は、自分にとって定着させにくい知識ですので工夫する必要があります。
こういった場合は、一度短答式の問題を解くのをやめて、別の手段を検討しましょう。これは、刑法や憲法も同様です。
例えば、私は、以下のような方法を組み合わせて学習していました。

①:問題文が短めの問題集を使う

旧司のような、問題文が比較的短めで、1問につき出題されるテーマがある程度限定されている問題集を使用します。
ここでの目的は、答案の書き方や論証の確認ではありません。あくまで、その問題で問われている知識の整理や理解が目的です。
したがって、答案を書く必要はありません。
・答案構成のメモ
・その問題に関する要件事実、ブロックダイアグラム、効果、解釈、制度ごとの違い
等を、箇条書きで良いので自分の言葉で説明できるかを確認してみましょう。

これも、「産出効果」を利用した学習方法といえます。選択肢なしで自分で言語化することは、その知識に関する理解や整理に寄与するため、体系的な整理がしやすくなり、それに伴って知識としても定着しやすくなります。
ちなみに私は、論文式試験の勉強もかねて、旧司型の短めの問題集を使って答案構成をしたり、ブロックダイアグラムのメモを書いて整理したりしていました。

②:テキストや択一六法の流し読み

択一六法等のテキストを「読み物」として眺める方法です。
やり方としては、1時間程度で1冊を最後までサラサラと流し読みする読み方で、1日のうちに周回させ、これを日々継続的に実施します。

この勉強法の目的は、その科目の全体像を掴み、体系的に整理する意識を持つことと、負荷を下げながら自然と記憶する効果を狙うことにあります。

流し読みのやり方としては、例えば以下のような手順です。

・最初の1、2周目は見出しや題名だけに目を向けて全体的な構造を意識する
・3~5周目辺りで、全体のアウトラインやキーワードなどにも目を向けていくことで、全体を意識しつつ単元同士の繋がりや各単元の要旨をつかむ
・6、7周目では本文にまで目を向けていき、具体的な内容をつかみ取っていく

精読するのではなく、まずは大枠としてアウトラインやキーワードを掴み、回数を重ねることで自然と全体から細部へと読み進めます。周回するうえでは内容が理解出来るか否かに関係なく、一定のスピードで目を通すように進めていきます。

この勉強法は、山口真由さんが子どもの頃から習慣的に行っていた「7回読み」勉強法として著書で紹介され一時期話題になりましたが、私も受験時代に民法はこの方法で勉強していました。
私の場合は、択一六法を毎日1時間程度パラパラ読むことを続けていました。最終的に民法の勉強は、ほぼこれだけになりました。
この勉強法は負荷が低いため、体調が悪い時や、休憩がてら横になりながらでも出来るので、ハードルを下げて続けられるのが利点です。

ただし、この勉強法は、全体像を頭に入れやすくなる反面、優先順位がないのでメリハリをつけにくい側面があります。また、パラパラと眺めるだけではどうしても覚えられない箇所も出てきます。
したがって、この方法のみで完璧に習熟することは難しいので、他の方法と組み合わせながら行うのが良いです。

📌 私は仕事柄、医療機関や行政機関からの仕事が多いのですが、初めて聞く未知の分野の相談や、自治体独自の制度や条例に関する相談が多かったりします。
このような予備知識ゼロでリサーチをしなければならない場合、アウトラインをざっくりと掴みつつポイントを絞り込んで要領よく押さえていく必要があるため、上記のような手法で調査していきます。受験時代に培った勉強法が今になって役立っているなと感じています。

③:1問解けば済む問題と何回も取り組む問題を区別する

テーマによって、1問理解して解ければ十分な問題と、回数を重ねて覚える必要のある問題があります。

前者は、論点に関する考え方や解釈を理解すれば、あとは、問題が変わっても、その場で考えれば良いタイプの問題です。
例として、刑法の各論点に関する問題や、人権の問題などが挙げられます。こういった問題は、各設問のテーマの理解が重要であり、それぞれの肢を個別具体的に覚える必要はありません。逆に言えば、解説で背景知識として判例が載っていたとしても、それを覚える必要はありません。

📌 例えば、刑法の因果関係の問題であれば、学説の比較をさせる問題でない限り、判例の考え方を前提として問われるため、「危険の現実化説」の考え方を理解しておければ、その場で考えて解けます。背景知識として紹介される個別の裁判例を逐一覚える必要はありません。

一方で後者は、理屈で押さえることが難しく、知っているか否かで決まりがちな問題です。代表的なものとしては、担保物権、家族法、統治などの条文知識がそのまま問われる問題です。
これらは、理屈云々で整理することは難しいため、どうしても回数を重ねて覚えるしかありません。

このように、質(理解)が重要となる問題と、量が重要となる問題がありますので、テーマによってどちらを重視すべきかを考えて、メリハリをつけて勉強するようにしましょう。

5:短答民法は、40点以上は取る戦略を立てよう

第6回で、自分の取り得る点数のブレ幅の下限で考え、自分に合った合理的な戦略を立てることを説明しました。

「合格ライン(足切り点数)を確実に1点超えることが出来る戦略」であれば、基本的にどのような戦略を立てても構わないのですが、民法の下限点数が40点以下とする戦略を立てることは、基本的にはオススメしません。
民法は他の2科目より点数配分が大きいため、その分、獲得点数が低いと合計点への影響も大きいからです。

また、私が見てきた法科大学院の受験生のうち、短答民法で40点を下回って合格した受験生は、過去5年間で1人しかいないというデータもあります。
近年の短答式試験の足切りラインは概ね100点弱ですが、刑法と憲法の点数のブレ幅が非常に小さく、刑法と憲法で100%90点以上取れるのであれば、民法の下限点が40点以下とする戦略を立てても良いですが、100%とは言い切れないのであれば、最低でも下限点を40点以上とする戦略を立てましょう。
また、現在、民法の得点のブレ幅の下限が40点以下にある人は、下限点が最低でも40点以上は確実にするための学習計画を立てましょう。

🌸 今回のポイント

①:何度も間違える肢の知識は、工夫して定着させること
②:刑法と憲法は、短答式と論文式を別物と捉えず、解法も統一すること
③:短答民法は、刑法・憲法以上にメリハリをつけて勉強すること
④:短答式の問題を解くことだけに固執せず、様々な方法で学習すること
⑤:短答民法は、下限点を40点以下に設定する戦略は立てないこと

今回は以上です。
次回は、再び論文式試験に話題を戻して、知らない問題に対する方法論について解説します。

この記事に関して、自分にあった学習計画や戦略の立て方の判断に迷う方へ。

短答式試験の学習方法は共通のように見えても、実は人によって方法や戦略は大きく異なります。また、勉強を続けていても効果の出方も個人差があります。加えて、単調な学習になりがちなため、間違った方法で勉強しているとしても、気がつきにくい側面があります。

そういった人に向けて、学習内容や現在の状況などをうかがい、個別具体的な分析を行って、現在どういう問題があるかを特定し、何を優先すべきかを一緒に整理しますので、検討していただければと思います。

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