第14回=第4章(その2):【ペイシェントハラスメント】「転院の日」

第14回=第4章(その2):【ペイシェントハラスメント】「転院の日」

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法律・税務・士業全般
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皆さん、こんにちは。

前回からいよいよ転院当時のエピソードに突入し、初回から動きがありました。

転院当日はB氏の感情がむき出しになる場面が再三あり、現場対応の困難さを感じられる描写もあります。

病院だけでなく、普段、現場でこのような対応をされているスタッフの皆さんがどれほどご苦労されているか、私の対応を通じて感じていただけたら幸いです。

【B氏の攻撃】

甲先生の手紙を握りつぶして床に捨て、退院請求通知書を細々に破り捨てたB氏は、さらに私に対し「他に俺に渡す書類はないか」と聞いてきました。

私は特に病棟からの書類の引き継ぎを受けていなかったので、「私からはありません」と返答しました。

B氏が病棟師長に対して「本当にないのか?」と確認すると、病棟師長からは「病棟からお渡しする書類があります」と返答がありました。

私が渡す書類と、病棟が渡す書類の性格が違いますから、病棟師長のこの感覚は、通常であれば特に問題がないと思いますが、このレベルの人物への対応は、もっと事前に詰めておく必要があったかもしれません。

私にしても、B氏から「他に俺に渡す書類はないか」と聞かれたときに、即座に「ない」と答えるのではなく、病棟師長に確認をした方がよかったと思っています。

B氏の行動が最初から激しかったため、この時の私はB氏との対立を意識しすぎた思考になっていました。

B氏は「あんたが窓口になるって言ったんだからちゃんと聞いとけよ」と、私を責め、病棟からの書類は「TKから聞いてないから持って行かない」と受け取りを拒否しました。

続いて、これまでの私との経過について、B氏は延々と不満を述べてきました。

「人間的に間違っている」
「病院の職員として間違っている」
「どんな性格をしているのか。ロクな人生でもなかったんだろう」

など、私の人格を含めて否定し罵倒を続けました。

【電話対応に対する不満】

B氏は、私がB氏からの執拗な電話の対応を拒否する姿勢を変えなかったことに対して、何度も何度も攻撃してきました。

そして、電話の対応を拒否したこと等の一連の対応についてどう思うのかと質してきました。

私は、「通常の患者さんからの電話であれば、対応を拒否することは失礼にあたることです。しかし、Bさんからの電話はいたずらに対応したスタッフの時間を奪い、病院や個人を攻撃するものがほとんどでした。なのであなたからの電話に関しては、すべてに対応する必要性はないと判断しました。あなたの電話は正当な業務の機会を奪い、スタッフを消耗させるもので、それを拒否したことは間違った判断ではないとはっきりと言えます」と言い切りました。

B氏は私に顔を近付けて睨みつけてきましたが、私はその目を感情を一切表すことなく見つめ返しました。

B氏は「チッ」と舌打ちをして、「なんだこいつは」と呟きました。

【受け続けた30分】

ほぼ一方的にB氏からの非難を受ける中で、それでもB氏はところどころで「退院はする」との言がありました。

これは自身の行為が一方的な攻撃ではなく、あくまでも私との「話し合い」であるということを担保しておきたかった心理の裏付けだと私は判断しています。

B氏は、ほぼ休むことなく約30分の間、私を非難し続けました。
私はB氏の顔から目をそらすことなく、B氏の表情を見つめてその攻撃を受け続けました。

こんなとき、その言葉(攻撃)をすべて受けていると、精神に大きなダメージを受けます。
私は、言葉は聞こえてはいますが、それが自分の中に入ってこないように心のフタを閉めて、B氏の言葉を閉め出していました。

これは前職時代の訓練とこれまでの場数が成せる技かもしれません。

とにかく、攻撃的な言葉が自分の中に入ってこないように、立って話を聞いている実体である自分と、実体とは異なるエリアでその状況を冷静に観察している自分を切り分けて、流れが変わるタイミングを見計らうのです。

【転院だけを見据えて】

B氏は散々私に不満をぶつけたことで、少し気が収まったのか、「これから俺が呼んだ介護タクシーが迎えにくる。ストレッチャーへの移動をお前が手伝え」と要求してきました。

私は完全に考えを切り替え、とにかくこのB氏を病院の外に出して、二度と足を踏み入れないようにすることにすべてを注力することに決め、この要求を承諾しました。

B氏は、介護タクシーが到着する間もほぼ一方的に私に話しかけてきました。

そのほとんどを私は思考にフタをして聞き流しましたが、ポイントとなる言葉は留めるようにしました。

B氏は、前日の長時間にわたる電話では「転院したらこの病院、TKと何もやり取りすることはない」と繰り返し言っていましたが、この日は「これまでのお前とのやり取りについて話し合いをしたい。録音している内容を第三者的な立場の病院職員に立ち会わせ評価させる」と要求してきました。

私は、当初は明確な返答はしませんでしたが、B氏が執拗に要求するので、「趣旨は理解できますが、既にあなたとは信頼関係が崩壊している病院のスタッフにこれまでの経過を評価させても、第三者的な評価は出せないでしょう。既にあなたのこれまで行為は院内で情報共有をしていますから」と指摘しました。

B氏は私の指摘に対し、少し目を見開くような表情になりましたが、それ以上の電話のやり取りについての話題はやめ、次に先日中止となったICについて話題を変えました。

【緊張性失笑】

B氏はICが中止になったことは知っているかと尋ね、私が「中止になったことは知っています」と答えると、「そのときの甲先生の態度についてどう思うか。俺は、甲先生の態度は俺を侮辱したと思っている」と質問してきました。

私は、「あなたの要求に応えて、私はその日その場に居合わせていません。あなたの質問は甲先生がどのような態度、言葉であなたと接したのか一切説明がありませんので、私が甲先生の言動を評価するものではありません」と返答しました。

B氏は「甲先生は薄ら笑いを浮かべて、うんうんと頷くだけだった。俺はあの態度は侮辱だと強く強く感じている」と反論してきましたが、私は「感じ方は人それぞれでしょう。私が評価するべきではないことです」と、B氏に同意はしませんでした。

この甲先生の「薄ら笑いを浮かべて、うんうんと頷くだけだった」という行動ですが、これは甲先生が極めて強い緊張状態にあったと考えられます。

「緊張性失笑」と言うらしいのですが、人間は強いストレスやプレッシャーを受けると、防衛本能で精神のバランスを整えるために、本人の意思に関わらず笑みを浮かべてしまうことがあるそうです。

例えば、凶悪事件の被疑者の取調べを担当したとき、本人が自身の行為を悔いて、犯行に至った経緯を素直に話していても、犯行の実行行為やそのときの心理面を話すときに強い緊張を感じて笑みを浮かべることがあります。
実行行為を詳しく供述することで、自身の刑事責任が公判で問われ、重い判決を受けるということを意識すると、その緊張は相当なものだったと思います。

この時の甲先生は、誠実にAさんの病状を説明するつもりだったところ、B氏から思いがけず、指を差されて罵倒される等の攻撃を受けたことで、強いストレスを受けて緊張性失笑が出現したのだと思われます。

B氏の一連の言動は、それほどまでに医師だけではなく病院の関係者にストレスを与えていたのです。
(その3へ続く)

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