小さい頃からコンプレックスの中核を担っている父親譲りのハスキーボイス。
三人兄弟のうち(自分、妹、弟)一番最年長である自分にのみ、ハスキーボイスは授けられた。
声変わりしていないころから、
「酒焼け?」
「声にノイズが混じっている」
「いつからその声?苦しくない?」
友達や友達の友達からは言いたい放題言われた。
「わたし風邪引いちゃった。いちじくいっせいのような声だ」と悪気なく言われると、風邪をひいていない俺を巻き込むなと言いたい。
一番困ることといえば、面接。
シャツを第一ボタンまで閉めると、喉仏が押さえつけられて思うように発声できない。
かと言って、ボタンを閉めずにネクタイを上まで上げると今度は窒息しそうになる。
抜き差しならない状況だ。
新卒就活時代のグループワークが嫌でたまらなかった。社会に出る前の青臭さが残る、学生というのは往々にして自己中心的である。
やたらとマウントをとってくるグループワークのメンバーのひとりが、「もう少し、声張ってください。何言ってるんですか?」と笑い、それ以降自分そっちのけでグループワークを進行しはじめた。やるせなかった。
開始5分、自己紹介で潰された。
加えて、時代はリーマンショックの真っ只中。
買い手市場であり、圧迫面接なるバカの極みが
バカの一つ覚えで横行していた。
XというSNS、パワハラという言葉が生まれる前のことである。世の中は不況により、想像以上に冷え切っている事実を就活により感じた。
面接はただでさえ緊張するのに、自分の場合は喉ちんこにバーベルをぶら下げて面接をするようなものだ。声が出ていないことは自分でもよくわかっている。
ハスキーボイスの有名男性アイドルがTVで言っていた。
「僕飲み物によって声変わります」
わかる。めっちゃわかる。
緊張していなくても、いきなり声が出なくなるし、このハスキーとやらを飼い慣らすのはなかなか難しい。コツがいる。
社会に出ると、いわゆるハスキーボイスいじりは次第になくなっていった。
水商売酒屋の代表を辞めてから5年。
それ以降、派遣社員でコールセンターのオペレーターとして電話をする仕事に就いている。
・・・
「は?」と感じたのではないだろうか。
さっきまでハスキーボイスの生きづらさを並べ立てていたのに。
長らくコンプレックスであった声を、仕事道具にしている現状に、自分ですら「え?」と感じている。
電話の苦手意識は今でも抜けておらず、一本でも多く電話に出たくないという気持ちでいることに変わりはない。頼むからノイズ少なめの発声が出来ますようにと、神に祈りながら仕事をする日々を送っている。
コールセンターは主に「受電」と「架電」に分かれる。電話をするか、電話を受けるかのどちらか。
今の勤務先は架電7、受電3の業務内容だ。
研修期間を無事終えたとき、教育係の女性からこれからの人生において励みになる、ありがたいお言葉を頂いた。
「あなたの声はハスキーだから、押しつけがましく感じない。営業に向いていると思う」
え?マジ?
めっちゃ嬉しいわ。その一言!
37年間生きてきて、初めて芽が出た新たな視点。
自分の強み。それに気づいていなかった。
この一言をかけられただけでも、この職場で働いてよかったと思う。
意外なところから、自分の強みが顔をのぞかせる時がある。今、なにかしらのコンプレックスを持っているなぁと感じている人も、実は周りからするとそれはコンプレックスではなくて持ち味、として捉えられていることもあると思う。
前向きに生きてこうぜ。