表参道にあるメンズアパレルショップで働いていた20代半ばの
自分はその店で販売員として、メンズのジャケットや靴などメンズ洋品をお客様に提案する仕事をしていた。最年少ということもあり、約一回り年の離れた店長には2日に一回くらいのペースで毎晩ご飯に連れて行ってもらいかわいがられていた。
ランチ休憩の時には、職場近くのイタリアンバルでワインを飲んだり、閉店後は職場に寿司の出前を注文したり、今思うといい時代だ。
体育会系な人が多いアパレルの世界に身を置きながら、いつも飄々としている店長から怒鳴られたことなど一度もなく、伸び伸びやらせてもらっていたことはありがたかった。
月の売上をあげるためにも、自ら高額商品を社販で買ったり、地方に住むお兄さんにプレゼントするとか言ってクレジットカードを切っていた店長。
ちょうど働き始めて2回目の年末を迎えるタイミングで店長が会社を去った。
聞くところによると、会議中役員にひとり呼び出されてそれから戻ってこなくなったという。
どうやら、ヤフオクで店にある商品の写真を掲載して売れたら社販で買うみたいなことを繰り返していたらしい。
売れたら買う。つまり、リスクゼロ。
店長以下副店長含め全員契約社員のなか、店長は
職場にでっかいジープを横付けで出社することもあった。給料事情は知らない。
その一件以降、社販のルールはかなり厳しくなった。これには参った。アパレルで働いている人間は、もれなく洋服好きだ。これには参った。
給料が少ない分、安く洋服が買えるというアパレルで働く旨みが薄くなってしまったのだから無理はない。
そんな話を当時付き合っていた2歳年下の大手アパレルで店長をしていた彼女に話してみた。
「いい店長だけど、最後が残念だったな」と。
そしたらなんと、
「え、もしかしてその人。大卒の新卒でうちの会社入社してるよ。〇〇さんでしょ?その時も同じことやって追放されたらしい。」
犯罪ではないが彼は倫理感に背いた。
役員の反感を買った。
店長が去ってから1年後、勤務先の店は閉店した。
実際、賛否両論あるがヒャクゼロで店長を責めるという立場に自分はいない。
売上が届くか届かないところで、店長が身銭を切って、予算達成に貢献したこともあることを知っているだけに、黒か白ではっきりさせることには疑問を感じる。グレー。それも極めて黒に近い墨黒があってもいいじゃないか。
いくばくかの退職金(給料2ヶ月分くらいか)を貰い同僚達は仕事にあぶれた。
正義を貫いた役員は本社に自分たちを招集しなかった。
倫理に背いているあいだ、店長は自分たちの職を下支えしてくれていたと自分はポジティブに捉えることにしている。
結局のところ、モノごとの匙加減は置かれているポジションによって捉え方は変わるし、世間は思った以上に狭いので、襟を正して生きていこうと思った所存である。
どこにでも学びはある。