第2話「名前を知っただけなのに、距離が変わった」
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占い
朝。
教室に入った瞬間、
なぜか昨日とは違う空気を感じた。
いや、違う。
空気じゃない。
(…あいつ、いる)
視界の端に、黒髪。
窓際の席。
昨日と同じ場所。
それだけで、
妙に意識が持っていかれる。
(…なんでだよ)
自分でも意味が分からない。
ただ隣の席なだけ。
話したのも、ほんの数秒。
それなのに。
「結城 澪」
出席のとき、名前が呼ばれた。
澪。
その二文字が、
妙に残った。
(澪、か)
口には出さない。
でも、頭の中で何度もなぞる。
授業が始まる。
先生の声。
黒板の音。
いつもと同じはずなのに、
集中できない。
視線が、勝手に横にいく。
澪は、ノートを取っていた。
無駄のない動き。
静かで、綺麗な字。
(真面目なんだな)
意外だった。
昨日の印象は、
どちらかといえば雑だったから。
そのギャップに、
少しだけ引っかかる。
ふと。
澪がペンを止めた。
(やば)
目が合う。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
でも、確かに合った。
澪はすぐに目を逸らした。
何もなかったみたいに。
でも。
(今、見たよな)
心臓が、少しだけ早くなる。
なんでもないことのはずなのに。
なんでこんなに、意識するんだよ。
昼休み。
教室が一気に騒がしくなる。
澪は、友達と話していた。
普通に。
笑って。
(…普通に喋るんだ)
当たり前のことなのに、
少しだけ安心した。
そのとき。
「ねえ」
突然、声をかけられた。
振り向くと、澪。
距離、近い。
「これ、どこまでやった?」
プリントを指差している。
(なんで俺?)
そう思ったのに、
口から出たのは別の言葉だった。
「…ここまで」
指で示す。
澪はそれを見て、
小さく頷いた。
「ありがと」
それだけ。
それだけなのに。
(…今、普通だった)
昨日みたいなトゲがない。
むしろ、少し柔らかい。
その変化に、
また心がざわつく。
(なんなんだよ)
関わらない方がいい。
そう思ってたはずなのに。
気づけば。
(…もっと話したい)
そんなことを考えていた。
ただ名前を知っただけ。
ただ少し会話しただけ。
それだけで、
距離の感じ方が変わる。
こんな単純なことで。
(…めんどくさいな)
そう思いながらも。
どこか、嫌じゃなかった。
この感覚が、
少しずつ大きくなっていくことを。
まだ、知らなかった。
続く。