現代の「個性の尊重」と「社会性(協調性)」のバランス
そして生き方の多様化がもたらす影響について、
太宰治「人間失格」の視点も交えながら、感じたことをお話ししたいと思います。
現在は「会社という組織」に縛られない生き方が選べる時代です。
しかし、それが「真の自由」なのか、あるいは「協調性からの逃避」なのかは、議論の分かれるところだと思います。
まず、この著書の主人公について説明します。
太宰治の代表作『人間失格』は、一言で言うと「周りの人間が怖すぎて、おどけて自分を偽り続けた男の破滅の物語」だと感じています。
その根底にあるのは「普通の人間のふりができない」という切実な疎外感です。
1. 主人公・大庭葉蔵の「道化」
主人公の葉蔵(ようぞう)は、幼い頃から「人間の営み」が理解できず、
他人が怖くてたまりませんでした。
恐怖心: 隣人が何を考えているのかわからない、本音と建前を使い分ける人間が怪物のように見える。
道化(どうけ): 恐怖から逃れ、人間に溶け込むために、彼はあえて「お調子者」を演じます。わざと転んだり、おどけた顔をしたりして人を笑わせ、自分の本心を必死に隠しました。
【 道化の始まり(父へのプレゼント事件)】
葉蔵の家庭は非常に裕福で、父親は政治家として忙しく、厳格な人物でした。ある日、父親が東京へ行く際、子供たちを並べて「お土産に何が欲しいか」を尋ねる場面があります。
1. 絶望的な「空気読み」
父親はメモ帳を片手に、子どもたちの要望を控えていきます。
葉蔵の番になったとき、父は「獅子舞(ししまい)の玩具がいいか?」と尋ねました。
しかし、葉蔵はプレゼントが欲しいわけではなく、ただ「父の機嫌を損ねてはいけない、場を白けさせてはいけない」という恐怖心で頭がいっぱいになります。彼は答えに窮し、黙り込んでしまいました。
2. 失敗とリカバリー
不機嫌になった父は、メモに何も書かずに去ってしまいます。
葉蔵は「怒らせてしまった、復讐されるかもしれない」と夜も眠れないほど怯えます。
そこで彼が取った行動は、真夜中にこっそり居間へ忍び込み、父のバッグに入っているメモ帳に、自分の欲しくもない「獅子舞」という文字を書き込むことでした。
3. 計算された「子供らしさ」
翌朝、それを見つけた父親は「なんだ、葉蔵のいたずらか。これが欲しかったのか」と大笑いします。葉蔵はそれを見て、内面で「成功だ」と安堵します。
自分の欲求ではなく、「相手が自分に期待している役割」を察知し、
それを全力で演じて見せる。この「獅子舞」のエピソードは、
彼が一生涯続けてしまう「嘘の人生」を象徴する出来事となりました。
次回は、著書の主人公「葉蔵」と現代の「インフルエンサー」を重ねてあれこれ考察したいと思います。