「おはようございます!」
元気よく挨拶をして、私は新しい部署のドアを開けた。
私の名前は澪(みお)。20代半ば。今日から、このマーケティング部に配属された。
心臓がドキドキと音を立てている。
新しい環境、新しい仕事、そして新しい人間関係。
期待と不安が、交互に波のように押し寄せてくる。
「……おはよう」
静かな声が、オフィスの空気を裂いた。
声の主は、私のデスクの隣にある大きなデスクに座っていた。
黒いスーツをパリッと着こなし、冷徹な表情でパソコンに向かっている。
彼こそが、この部署のリーダー、蒼(あおい)さんだ。
「マーケティング部のリーダー、蒼です。よろしく」
蒼さんは、パソコンから目を離さずに言った。
歓迎の言葉も、笑顔もない。
ただ、業務的な事実を伝えるだけの声。
私は、一瞬、呼吸を忘れた。
「……あ、はい。澪です。よろしくお願いします」
私は、慌てて挨拶を返した。
声が少し震えてしまった。
「澪さんの業務は、これです」
蒼さんは、分厚い資料を私のデスクに置いた。
「このプロジェクトの目標は、これ。効率は、これ。澪さんには、この数字を達成してもらいます」
蒼さんの言葉は、歓迎ではなく、私に対する“目標”だった。
初日から、圧倒されるようなプレッシャー。
私は、その厳しさに、大きな不安を感じた。
(……私、大丈夫かな)
新しい環境で、新しい仕事。
そして、厳しそうな蒼さん。
私の期待は、一瞬にして不安へと変わってしまった。
(……でも、やるしかない)
私は、蒼さんの背中を見つめながら、自分に言い聞かせた。
不安に負けずに、この新しい環境で、成長していくんだ。
私の新しい物語は、まだ始まったばかり。
続く。