誰にも言えなかった夜のこと

記事
コラム
25年ほど前のこと。
四半世紀も経ったのに、あの夜の出来事は、今でもはっきりと思い出せる。
これまで誰にも話したことがなかった。
語ることが怖かったのか、語る言葉が見つからなかったのか。
ただ、思い出すたびに胸をぎゅっと掴まれるような気持ちになる。
今なら言葉にできる。それほどに、大人になった。強くなった。
あれは、第一子を産んで1ヶ月と少しが経った7月のこと。
誕生日を祝ってくれるという友人の誘いに、夫に赤ちゃんを任せて、家から10分ほどのお店で食事をした。久しぶりの外食。話が弾み、時間が過ぎるのもあっという間だった。
夜10時ごろ、店を出て、友人と歩道をゆっくり歩いていた。
そのとき、後ろから自転車が近づいてきて、私の肩に何かが当たった。「いたっ」と思った瞬間、黒い服の人が私のカバンを奪って、自転車で走り去っていくのが見えた。
「その人止めて!」と叫びながら走って追いかけたけれど、追いつけるはずもなく、私は転倒した。
擦りむいた膝と手のひら。ショックと痛みで泣きながら家に帰った。
夫に話すと、彼はこう言った。

「こんな時間まで家を空けてるからこんな目に遭うんだ」

その言葉は、今でもふとした瞬間に思い出す。
バスに揺られているとき、寝室へ向かう階段を上るとき、朝の台所でプロテインを振っているとき。
あの夜の出来事よりも、その言葉のほうが、ずっと長く私の中に残っている。

警察にも行った。
財布の値段を聞かれた。
それは、何度も探してようやく手に入れた、気に入っていたものだった。値段よりも、そういう思い入れを伝えたかった。
でも「金額が必要です」と言われ、「1万円」と答えると、警察官はこう言った。

「え?そんな高い財布使ってんの?」

その言葉にも、責められているような気持ちになった。
被害に遭ったのは私なのに、なぜこんなにも責められるのだろう。
その夜、家でも外でも、私は守られるどころか、責められる側に立たされていた。
当時は、若さもあって、感情を抑えることに慣れていた。
言葉にする術も知らなかった。

でも今なら、はっきりと言える。

悪いのは、夜道を歩いていた私ではない。
産後1ヶ月で家を空けた私でもない。
高い財布を持っていた私でもない。
悪いのは、ひったくりの犯人だ。

語ることで、あの時の自分に少しだけ手を伸ばせる気がする。
そして、あの言葉に対して、ようやく「違うよ」と言えるようになった。
でもこうして言葉にできるようになった私は
可愛げがない女、怖い女、強過ぎる女、
って言われるんだと思う。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら