『正しさの檻』第四章:覚悟の代償

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最終面接:社会人としての洗礼
MARIは、まばゆい照明が落ちる会議室で、役員たちの前に座っていた。
静まり返った空間に、ひとりの男性役員が低く落ち着いた声で口を開く。

「君が我々の会社で何をしたいか、聞かせてもらおうか。」

鼓動が、ドクンと鳴る。

MARIは一度、深く息を吸い込んだ。だが、呼吸すら自分のものではないような感覚に陥る。
この場所では、自分の価値を“自分で”語らねばならない。

「……私は、御社で成長したいと思っています。」

沈黙。

「成長?それはどこでもできるよね。」

刃物のような指摘。

「はい。でも、ここでしかできない成長があると思っています。」

「それは?」

「……SHIHOさんのような方々の中で、学び、磨かれたいんです。」

一瞬、場の空気が緩んだ。

「なるほど。」

だが次の瞬間、別の役員が問いかける。

「では、我々が求めるものを知っているか?」

「……社会人としての責任、そして価値を生む力。」

「うん、悪くない。」

役員の一人が、微かに笑みを浮かべた。

「ただ、覚えておいてほしい。君が何を“得たいか”ではなく、君が何を“与えられるか”が大事なんだ。」

その一言が、胸の奥を鋭く突き刺す。

これまでの自分は、“成長したい”“学びたい”と、自分のための理由ばかりだった。
しかし、社会においては“自分が誰かにとって何者か”でなければ、生き残れない。

MARIは、自分の“甘さ”を知った。

面接が終わり、深く頭を下げて部屋を出たとき、彼女は確かに洗礼を浴びていた。
「社会人」とは、自分の人生を“誰かのため”に捧げる覚悟のことなのだと、はじめて理解した気がした。

内定通知:SHIHOとの再会
数日後——MARIのスマホが震えた。
通知を開くと、そこには見覚えのある名前。

SHIHO

『内定、おめでとう。直接、通知を渡したいんだけど、時間ある?』

画面を見つめたまま、胸の奥でなにかが跳ねた。
憧れの人との再会。その瞬間にすべてが報われた気がする。

「……何を着ていこう?」

スーツか、私服か。悩む自分が少しだけ恥ずかしい。

——そのとき、再びメッセージが届いた。

『普段、学校に行く服でいいからね。』

まるで心を見透かすような一文。
彼女には、やっぱり何もかも読まれている。

ハイセンスな世界
待ち合わせ場所は、会社ではなかった。

連れて行かれたのは、都会の隠れ家のような洗練されたカフェ。
天井まで届く書棚に、丁寧に配置されたアートとドライフラワー。
隣のテーブルから聞こえる会話ですら、どこか知的だった。

「ここ……場違いかも。」

MARIは、靴音を控えめにして店内に入った。
目の前に現れたSHIHOは、この空間と完璧に調和していた。

黒のシンプルなセットアップに、パールの小さなピアス。
一見控えめに見えて、すべてが計算されたような“抜け感”。

「内定、おめでとう。」

差し出された封筒を受け取るMARI。
だが、彼女の視線は封筒よりも、その手を伸ばした“生き様”に惹きつけられていた。

SHIHOの言葉、仕草、目線、沈黙すらも美しい。
何気ない会話の中に“矛盾を許す知性”と“余白を生きる感性”が同居していた。

——この人には、何も勝てない。

そう思ったが、MARIはそれに気づかない。
なぜなら、彼女はまだ“自分の延長線”でしか世界を見ていないから。

衝動と決断
「この会社に入ります!」

唐突な宣言。MARI自身も驚いていた。

だがそれ以上に驚いたのは、次の一言だった。

「あなたに追いつかなきゃいけないので、彼とは別れます。」

——しまった。

口にした瞬間、後悔がよぎった。だがSHIHOは、目を細めて微笑んだ。

「いいね、それくらいの覚悟があれば活躍できるんじゃない?」

まさかの肯定。
その言葉で、すべてが現実になった。

もう後戻りできない。彼氏との別れすら、未来への“投資”に変わったのだ。

“別れさせ屋”の存在
「ちょっと、報告してくるね。」

SHIHOが席を外した直後——
扉が開き、あの男性が入ってくる。

すっと自然に席に座り、SHIHOが紹介する。

「この子、ウチで活躍するために彼氏と別れて入社するって。」

「また別れさせちゃったの?」

彼は、笑いながらSHIHOの肩を軽く叩く。

「まぁ、俺らと出会ったら、そうなるよね。」

彼はMARIを見つめ、真顔で言った。

「この世界に入るには、“命がけ”で向き合えるもの以外、全部捨てる覚悟が必要なんだよ。」

「付き合うだけの関係なら、時間の無駄でしょ。」

即答するSHIHO。
そのやりとりは、まるで“文化”のようだった。

MARIは笑顔をつくるが、内心は凍りついていた。

——これは、当たり前のことだったのか?

自分が“すごい決断をした”と思っていたのに、彼らにとってはただの日常だった。

手に入れたいもの、知らないもの
「私たちと楽しめるといいね。」

ふたりは軽やかに去っていった。

MARIは、その背中を見送りながら、必死に感情を整理していた。

彼らには、私の迷いも、悩みも、決意も、すべてが“当たり前”だった。
自分の感情が、まるで“軽すぎる”ものに見えてくる。

けれど——

それでも、この世界に惹かれる。
彼らの言葉、在り方、スピード、熱量、冷静、全てが美しくて、美味しい。

この世界を、手に入れたい。
でも、自分にはまだ、“命がけ”の意味がわからない。


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