『正しさの檻』第三章:崩される自分

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一次面接前夜:鏡の中の自分
MARIは鏡の前に立ち、スーツの襟を正した。

「大丈夫。私は、できる。」

そう言い聞かせながら、髪をまとめ、表情を確認する。

どこから見ても、“就活生らしい”自分がいた。

でも、それだけでは物足りなかった。

「私は、ありきたりじゃない。」

履歴書の志望動機に書いた「特になし」の文字が脳裏をよぎる。

あれは、ただの反抗じゃない。

“売り込まれる”側から“選ぶ”側への戦略的転換。

「面接官、食いつくに決まってる。」

ふっと口元が緩む。

「ふふ、楽しみ。」

ベッドに横たわり、天井を見つめる。

緊張は少しだけあった。

でもそれ以上に、自分が「何者になっていくのか」——

その答えに出会えるのが、楽しみだった。

一次面接当日:見透かされる感覚
朝、再び鏡の前。

完璧なスーツ。整えた髪。磨かれた靴。

「私は、堂々としてる。誰よりも、目立つ。」

そう言い聞かせ、会場へと向かった。

電車の窓に映る自分に、目を細める。

やがて面接会場に到着し、面接室の前で待たされる。

数分後——

扉が開いた。

「あなた、長女ね。」

え?

初対面のはずの女性が、即座に言い放つ。

「志望動機、“特になし”って書いたの、思い切り背伸びしてるわね。」

MARIは一瞬、心を掻き乱された。

でも、すぐに思い直す。

「これは、試されてるんだ。」

「でも、いいじゃない。」

面接官——SHIHOは微笑んだ。

「あなた、強烈に『私をわかってほしい』って思ってる。でも、同時に『わかられてたまるか』とも思ってる。」

心臓が跳ねた。

なぜ、そんなにも見抜かれる?

言葉が出てこない。

「生意気だけど、可愛いね。」

——完全に、見透かされていた。

思わず、MARIの口から出た言葉。

「私、あなたに追いつきます!」

自分でも驚いた。

SHIHOはくすっと笑った。

「いいじゃん。」

一次面接後の夜:余裕と不安の狭間
夜、自室。

スマホの画面に「一次面接通過」の文字が光る。

「ほらね。」

勝ち取ったはずの合格通知。

当然の結果。

だけど……

「次も、大丈夫よね?」

小さなつぶやきが漏れる。

ほんのわずか、あの面接での“動揺”が尾を引いていた。

でも、自信を失ってはいけない。

「私は、特別。」

そう信じることが、唯一の武器だった。

集団面接当日:異様な空間
数日後、次の面接へ。

会場に入ると、5人の学生が並んでいた。

「集団面接?」

MARIは心の中で舌打ちする。

個性で勝負する私にとっては、1対1が理想だった。

他の学生たちは、一見して“普通”。

——私は違う。

物静かな女性に案内され、面接室に入る。

やがて扉が開き、現れたのは——

あの男性。

ペットボトルの水を一口飲み、履歴書には目もくれず、いきなり語り出す。

「君は、そう簡単に人を信じないね。」

驚く学生たち。

「でも、コツコツ積み上げて、誠実に生きてる。他人の悪口はいけないことを知っていて、それを守ってる。いい奴だな。」

まるで魔法のように、性格を言い当てていく。

学生の一人が泣いた。

「……ずっと、自信がなかったんです。」

女性スタッフが、黙ってティッシュを差し出す。

異様な空気の中で、MARIは目を細めた。

——何かが、おかしい。

でも、目が離せない。

そして——

彼はMARIの方を見た。

「君は、優しいな。」

心臓が、震えた。

瞬間、涙が零れ落ちた。

自分でも、なぜかわからなかった。

ただ、その一言が——

心の奥を、真っ直ぐに撃ち抜いた。

「以上です。」

彼は、時計を見て立ち上がる。

ぴったり一時間。

そのまま、去っていった。

MARIは座ったまま、涙を流していた。

「……負けた。」

そんな言葉だけが、心に残った。

集団面接後の夜:崩される自分
夜、ベッドに倒れ込む。

スマホを開くと、通知が届いていた。

「二次面接合格」

画面を見つめたまま、MARIは動けなかった。

「……私、なんで泣いたんだろう。」

わからない。

これまで、どんな場面でも“自分”を演じきってきた。

完璧に。

なのに——

たった一言で、何かが崩れた。

自信。プライド。虚勢。

そのどれもが、音を立てて崩れ去った気がした。

「私は、特別」——そう思い込んできた。

でも、彼の一言は、その幻想を優しく砕いた。

——「君は優しいな。」

もう一度、その声が耳の奥で響く。

そして、涙がまたひとしずく、頬を伝った。
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