一次面接前夜:鏡の中の自分
MARIは鏡の前に立ち、スーツの襟を正した。
「大丈夫。私は、できる。」
そう言い聞かせながら、髪をまとめ、表情を確認する。
どこから見ても、“就活生らしい”自分がいた。
でも、それだけでは物足りなかった。
「私は、ありきたりじゃない。」
履歴書の志望動機に書いた「特になし」の文字が脳裏をよぎる。
あれは、ただの反抗じゃない。
“売り込まれる”側から“選ぶ”側への戦略的転換。
「面接官、食いつくに決まってる。」
ふっと口元が緩む。
「ふふ、楽しみ。」
ベッドに横たわり、天井を見つめる。
緊張は少しだけあった。
でもそれ以上に、自分が「何者になっていくのか」——
その答えに出会えるのが、楽しみだった。
一次面接当日:見透かされる感覚
朝、再び鏡の前。
完璧なスーツ。整えた髪。磨かれた靴。
「私は、堂々としてる。誰よりも、目立つ。」
そう言い聞かせ、会場へと向かった。
電車の窓に映る自分に、目を細める。
やがて面接会場に到着し、面接室の前で待たされる。
数分後——
扉が開いた。
「あなた、長女ね。」
え?
初対面のはずの女性が、即座に言い放つ。
「志望動機、“特になし”って書いたの、思い切り背伸びしてるわね。」
MARIは一瞬、心を掻き乱された。
でも、すぐに思い直す。
「これは、試されてるんだ。」
「でも、いいじゃない。」
面接官——SHIHOは微笑んだ。
「あなた、強烈に『私をわかってほしい』って思ってる。でも、同時に『わかられてたまるか』とも思ってる。」
心臓が跳ねた。
なぜ、そんなにも見抜かれる?
言葉が出てこない。
「生意気だけど、可愛いね。」
——完全に、見透かされていた。
思わず、MARIの口から出た言葉。
「私、あなたに追いつきます!」
自分でも驚いた。
SHIHOはくすっと笑った。
「いいじゃん。」
一次面接後の夜:余裕と不安の狭間
夜、自室。
スマホの画面に「一次面接通過」の文字が光る。
「ほらね。」
勝ち取ったはずの合格通知。
当然の結果。
だけど……
「次も、大丈夫よね?」
小さなつぶやきが漏れる。
ほんのわずか、あの面接での“動揺”が尾を引いていた。
でも、自信を失ってはいけない。
「私は、特別。」
そう信じることが、唯一の武器だった。
集団面接当日:異様な空間
数日後、次の面接へ。
会場に入ると、5人の学生が並んでいた。
「集団面接?」
MARIは心の中で舌打ちする。
個性で勝負する私にとっては、1対1が理想だった。
他の学生たちは、一見して“普通”。
——私は違う。
物静かな女性に案内され、面接室に入る。
やがて扉が開き、現れたのは——
あの男性。
ペットボトルの水を一口飲み、履歴書には目もくれず、いきなり語り出す。
「君は、そう簡単に人を信じないね。」
驚く学生たち。
「でも、コツコツ積み上げて、誠実に生きてる。他人の悪口はいけないことを知っていて、それを守ってる。いい奴だな。」
まるで魔法のように、性格を言い当てていく。
学生の一人が泣いた。
「……ずっと、自信がなかったんです。」
女性スタッフが、黙ってティッシュを差し出す。
異様な空気の中で、MARIは目を細めた。
——何かが、おかしい。
でも、目が離せない。
そして——
彼はMARIの方を見た。
「君は、優しいな。」
心臓が、震えた。
瞬間、涙が零れ落ちた。
自分でも、なぜかわからなかった。
ただ、その一言が——
心の奥を、真っ直ぐに撃ち抜いた。
「以上です。」
彼は、時計を見て立ち上がる。
ぴったり一時間。
そのまま、去っていった。
MARIは座ったまま、涙を流していた。
「……負けた。」
そんな言葉だけが、心に残った。
集団面接後の夜:崩される自分
夜、ベッドに倒れ込む。
スマホを開くと、通知が届いていた。
「二次面接合格」
画面を見つめたまま、MARIは動けなかった。
「……私、なんで泣いたんだろう。」
わからない。
これまで、どんな場面でも“自分”を演じきってきた。
完璧に。
なのに——
たった一言で、何かが崩れた。
自信。プライド。虚勢。
そのどれもが、音を立てて崩れ去った気がした。
「私は、特別」——そう思い込んできた。
でも、彼の一言は、その幻想を優しく砕いた。
——「君は優しいな。」
もう一度、その声が耳の奥で響く。
そして、涙がまたひとしずく、頬を伝った。