サンプル②(3000文字)の描写少な目タイプです。
真由美は隣の席で次のテストの範囲表を睨みつけている裕二を横目で確認して、珍しいこともあるなぁ、なんて失礼な感想を抱いてしまった。
けれど、仕方がない。
彼は一年の時も同じクラスだったけれど、すべてのテストで最低二教科ずつは赤点を取っていた。
「明日、槍でも降るんじゃない?」
そう茶化した真由美に、裕二はぎこちない動きで視線を向けてくる。
「……なに?」
目付きの悪い裕二に見つめられると、まるで睨まれているかのように錯覚するからやめてほしい。
「なぁ、真由美。ちょっと俺、今悩んでるんだけどさ」
「うん」
状況から見て、その悩みとやらはどう見たってテストについてだろう。
「テスト範囲って、どうやったら減る?」
「減ってたまるか!」
思わず、思いきり突っこんでしまった。
バカだ。
本気で言っているのか、このおバカは。
「ヤベェ、マジでヤベェよ……」
裕二がこんなに真面目にテストに向き合っているのを、真由美ははじめて見たかもしれない。
「なに、どうしたの。あんたいつも赤点じゃない」
「今回はそういうわけにはいかねぇんだよぉ……」
普段は底抜けに明るくて頼りになって、ちょっと男臭くて。
後輩から兄貴とか呼ばれるようなキャラのくせに。
たまにこうして甘えるような態度を取ってみせるのは、本当にズルいと思う。
「本当、どうしたのよ」
「赤点取ったら一週間、部活参加禁止になるって言われて……」
逆に、よく今まで言われなかったものだ。
「……なぁ」
今度こそ本当の、甘え声。
強面のくせに、ズルい。
ていうか。
ーー私が甘やかしちゃうのわかってて的確に甘えてくるの、ズルい。
「なによ」
「これから、休み時間とか、さ……」
尻窄みに言葉が消えていく。
勉強を教えてほしい、と頼みたかったらしい裕二は、どうやら勉強が嫌すぎて勇気が出ないらしい。
「……勉強、教えてくんね?」
たっぷりの逡巡と抵抗ののちに、裕二はようやくその言葉を吐きだした。
「いいけど……」
私は右手をあげて、人差し指と中指を立てて見せた。
「オレンジジュース、一日二本」
「げっ!」
食堂にある紙パックの自動販売機。
九十円で売っているオレンジジュースが真奈美の今のマイブームだ。
「テストまで二週間だろ。一日二本で約二百円で……」
「そこは百八十円で計算しよう?」
「百八十円……二日で……三百六十円……」
ブツブツと一生懸命計算する裕二を、これも勉強だ、と静かに見守ってみる。
「わかった、ノった!」
少し、驚いた。
お小遣い生活の高校生。
特に、裕二は部活帰りに家までもたなくてついついしてしまう買い食いのせいで常に金欠を嘆いているのに。
「マジで、こんな時期に部活禁止とかになるわけにいかねぇから。悪いけど、頼む」
「……仕方ないなぁ」
そう言った瞬間、裕二がニカリ、と笑う。
その笑顔に真由美が弱いと知ってやっているのなら、とんだ策士だ。
「オレンジジュース、赤点回避後の報酬でいいよ」
まぁ、最初から本気じゃなかったしね。
「マジで? やった、助かる!」
「代わりに、もし赤点回避失敗したら、オレンジジュース買い占めてもらうから」
「えぇっ?」
思いきり飛び上がった裕二だけど、赤点取らなきゃ問題ないよね?
「よっしゃ! 絶対回避するぜ!」
「はいはい、頑張って」
部活にまっすぐに向かう真摯な視線に惚れたけれど、普段のこんなバカっぽいやり取りも大好きだ。
勉強嫌いな裕二と勉強するのが大変だってわかっているのに、むしろちょっと嬉しく思っているなんて。
ーー惚れた方が負けだって、本当なんだなぁ。