ナッツリターン事件から学ぶ~パワハラとカスハラの接点~

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◆ 同時に語ることの違和感
ある自治体から、「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」と「職場内ハラスメント(以下、パワハラ)」をセットで、3時間で研修してほしいという依頼をいただきました。

正直、最初は戸惑いました。
カスハラはお客様からの不当要求、パワハラは職場での嫌がらせ。
似たような言葉ですが、背景も力関係も全く異なる現象です。

「これを一緒に教えるって、どうつなげたらいいんだろう?」

そう思ったときに、ある“事件”を思い出しました。

◆ ナッツリターン事件に見る「両面ハラスメント」
2014年、大韓航空の副社長がファーストクラスに搭乗した際、袋のまま出されたナッツの提供方法に不満を抱き、すでに離陸していた飛行機を引き返させたという「ナッツリターン事件」。

この事件は、顧客としての立場を利用したカスハラであると同時に、職位を使って乗務員を叱責・降機させたというパワハラでもあります。

私が特に注目したのは、「ナッツを袋のまま出す理由」についてのやりとりです。

マニュアルでは、ナッツアレルギーに配慮して袋のまま提供することが定められていた。
乗務員はそれに従い、「マニュアル通りです」と答えた。
でも、その瞬間に副社長の怒りに火がついてしまった。

なぜ、こうなるのでしょうか?

人間には、自分が「正しくやっている」と思っているときに、それを否定されると強く反発したくなる“防衛本能”があります。
理性ではなく、感情が主導権を握ってしまう瞬間です。

そして感情が理性を上回ると、本能が行動を支配する。
本能は「戦う」か「逃げる」しかできません。
ナッツリターン事件は、まさに“戦う”を選んでしまった本能の爆発だったのではないでしょうか。

◆ YESセットで、人の意識は変えられる
では、そんな場面でどう対応すれば良いのか?

私が大切にしているのは、「正論」より「共感」――
まずは相手に「そう!そうなんです!」と言ってもらうことです。

この「YESセット」をつくることで、相手の意識の向きを変えることができます。

なぜなら、人間の脳は“欠けていること”に注目しがちだからです。
一度「この人はおかしい」と思い込むと、その仮説に沿った情報ばかりを探し始めてしまう。
「やっぱりそうだ」「だからこの人は…」と。

だからこそ、最初に「できていること」に意識を向けてもらう。
そのための第一声が、「そうなんです!」を引き出す言葉だと私は思っています。

これは、私が日本年金機構で徴収職員をしていた頃、何度も体感したことです。

相手は、支払いの義務だけでなく、不安・焦り・怒りなど複雑な感情を抱えています。
そんな中で「正しいこと」を押し付けると、むしろこじれる。
まずは共感。まずは寄り添う。
その先に、ようやく理性の会話が始まるのです。

◆ まとめ:言葉が意識を導く
カスハラとパワハラは、確かに違う性質を持っています。
でも、共通しているのは、「感情」が暴走したときに発生するという点です。

感情が理性を超えたとき、人は“聞く耳”を失います。
そのスイッチを切り替えるには、「あなたの話を聞いています」「あなたの気持ちは分かります」という言葉の力が必要です。

研修では、その「言葉の力」を実感してもらえるよう、体験型でお届けしたいと思っています。

あなたが発する言葉は、相手の意識の方向を変えることができます。
そしてその一言が、組織のサービス品質をも変える力を持っているのです。
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