彼女は、できる人だった。
手際もよく、要領もよく、誰よりも成果を出し、信頼も厚かった。
けれど——なぜか。
いつも、その先に行けなかった。
企画を立ち上げると、足を引っ張られる。
新しいことを提案すれば、誰かが密かに妨害する。
表向きは笑顔、けれど背中に冷たい気配が貼りつく。
「なんでなんだろう」
「私、何か間違ったこと……してる?」
そんな疑問と疲弊が蓄積していた頃、
ある日、ふと手にした記事の中に、心結(ココ)の名を見つけた。
「……この人なら、何かわかるかもしれない」
—
その日、彼女は薄く笑ったまま、心結のもとを訪ねた。
静かな茶の間、香の煙がほのかに立ち上り、
心結は、静かに彼女を見つめた。
「あなたは“出る杭”です。でも……“杭”のほうじゃなくて、“炎”のように立つ人」
「炎、ですか?」
「ええ。だからこそ、あなたは他人の奥にある影を照らしてしまう。
そしてその影は、あなたの光を憎む」
—
心結は、すっと指を立てた。
「あなたには、まず “コン様” にお願いして縁切りをしましょう」
宇迦之御魂神のお力を持つ、子ぎつねの神様。
人と人を繋ぐ“縁”を、見極め、時に断つ存在。
情に流されて離れられなかった縁。
言葉にならない呪詛のような妬み。
見えないところで引き寄せていた、破壊の糸——
それらが、しゅる、しゅると焚き上がる炎の中で、切れていく。
「コン様、お願い申し上げます。
この方に纏わる妬み、呪縁、嫉妬、怨嗟——
すべて、燃やし切ってください」
—
数日後。
彼女は「すごく楽になった気がします」と言って、笑った。
職場でも妙な空気が薄まり、やっと自分の声が届くようになってきた。
けれど——2・3週間経つ頃から、また奇妙なことが起こりはじめた。
夢に焦げた紙のようなものが舞う。
朝起きると、のどがひどく渇いている。
妙な倦怠感。目の奥が痛む。
そして、ふとしたときに感じる“焦げた匂い”。
再び、心結を訪ねた彼女に、ココは静かに語った。
「コン様の炎で、たしかに縁は断ち切られました。
でも、燃やされたものの“燃えカス”が、あなたの周囲に残ってしまっている」
「え……燃えカス?」
「それは“想念のオリ(澱)”です。
言葉にならなかった妬み、積み重ねられた嫉妬、あなたが気づかぬうちに受けていた呪縛……
それが“かたち”にならないまま、空気のように漂っているのです」
「それは……どうすれば?」
心結は、深く頷いた。
「いまこそ、瀬織津姫の力が必要です。
水の神、浄化の神、魂を底から洗い流す存在。
ただ縁を切るだけでは足りません。
あなたの“魂の底”にある記憶、その奥に眠る過去のカルマすらも、
洗い流して、新たな流れに乗せなければ」
—そのとき、彼女の背後で、障子の向こうから風がふっと止まる音がした。
静けさが、深く部屋を満たす。
「浄化のときは、近づいています」
—
そして物語は、後編へと続く——