リーディングセラピー35 灯る瞬間

記事
小説
※まずは深呼吸
リラックスして読み進めてください。



ビルの隙間を吹き抜ける風が、頬を撫でていく。ネオンの滲んだ街灯りが足元を濡らし、ビニール傘越しに広がる景色はどこか歪んで見えた。
雨が降っているのか、それとも自分の心がそう映しているのか、もう分からない。
ただ、この時間が終わらないことを、切実に願っていた。

——今、この瞬間が、永遠ならいいのに。

目の前には、確かに笑っている顔があった。
声があった。
言葉があった。
けれど、その一つひとつが指の間からこぼれ落ちていくような感覚が拭えない。
手を伸ばせば届く距離にあるのに、その温度がどこか遠く感じる。
笑顔の裏側に何かを隠しているのは、相手だけじゃない。
自分自身もまた、どこかで「変わらない何か」を信じながら、変わりゆく現実を見て見ぬふりしているのかもしれなかった。

雨音がリズムを刻む。
街のざわめきが耳の奥でこだまし、目の前の景色と混ざり合っていく。
信号が赤から青へと変わるたびに、人々の流れもまた、瞬間ごとに塗り替えられる。
今日という日は二度と戻らないのに、まるでそれを忘れたかのように、世界は何事もなかったかのように続いていく。

「……寒くない?」

ふいにそう言われて、はっとする。
声の主は、変わらずこちらを見ていた。
小さく首を振ると、相手はどこか安心したように微笑んで、傘を少しだけこちらに傾けた。
肩に落ちていた冷たい滴が減る。
その小さな優しさが、ひどく愛おしく思えた。

——限られた時間なんて、最初から分かっていたはずなのに。

それでも、実際にその瞬間が迫ってくると、どうしようもなく苦しくなる。
何かを言おうとするたびに、喉の奥がつまる。言葉にすれば壊れてしまいそうで、ただ、今を刻みつけることしかできなかった。

信号がまた赤に変わる。
傘にあたる雨音が少しだけ強くなる。
近くのコンビニから出てきたカップルが笑い合う声が遠く聞こえた。
そのすべてが、愛しくて、切ない。
世界はずっと続いていくのに、どうしてこの瞬間だけは、止まってくれないのだろう。

「……ありがとう」

自分の声が、思っていたよりも小さく響いた。
相手は何も言わず、ただ、微笑んだ。
きっと、それで十分だったのだろう。

そして、足元の水たまりに映る街の光が、揺れながら滲んでいく。

——変わらないものなんて、何ひとつないのに。

それでも、変わりゆくすべてを抱きしめながら、今を大切に生きていくしかないのだ。
夜の街に、ふたつの影が並んで歩いていく。
どこまでも続く道の先に、たとえどんな未来が待っていても、この瞬間だけは確かにここにあったのだと、そう信じながら。
あとがき
「灯る瞬間」をお読みいただき、ありがとうございました。
この物語を書きながら、「大切なもの」とは何かをずっと考えていました。

それは形のあるものかもしれないし、言葉にできない感情や、誰かと過ごす時間かもしれません。
どんなものでも、手のひらに乗せた瞬間から少しずつ変わっていく。
けれど、その儚さを知っているからこそ、僕たちは今この瞬間を大事にしたいと願うのかもしれません。

すべての時間が特別である必要はないし、何かを残さなければいけないわけでもない。
ただ、ふとした瞬間に「これが続けばいいな」と思えることがあるなら、それだけで十分なのだと思います。

この物語が、あなた自身の記憶や感情と重なり、何かをそっと思い出すきっかけになれば嬉しいです。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
 この物語が、どこかであなたの心に灯り続けますように。



サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら