『あゝをとうとよ、君を泣く
君死にたまふことなかれ』
これは与謝野晶子の有名な詩の冒頭です。訳せば
『ああ、弟よ、あなたのために泣いています。どうぞ死なないでください』
という意味になります。
日露戦争で、遠い旅順に出兵した弟を思った歌ですが、この一文は今の私の心情そのものです。
昨日、珍しく弟から電話がありました。
大腸がんの手術を受けるから、緊急連絡先に名前を書いてもいいかとのことでした。
もちろん使って欲しい、他にできることがあれば言ってね。今は2人に1人はがんになる時代だから、大丈夫よ。うん大丈夫。
自分に言い聞かせるように大丈夫、大丈夫と繰り返す私に、笑って心配しないでねと言って、弟は電話を切りました。
それから私の胸の内はざわざわと波打っています。
弟は48歳です。高校生と小学生の娘がいます。弟嫁はどれほど心配しているでしょうか。
小姑がなにか言うとかえって気を遣わせるかしら、と思いながら手紙と一緒にお見舞いを渡そうと思う私。
母もさぞ心細いでしょう。
父を見送って一人暮らしをしている母は、末っ子長男の弟を頼りにしています。
高齢でも元気で朗らかに過ごしているのをいいことに、ご無沙汰ばかりしていました。
これからは、週に1度、せめて2週間に1度は顔を出して話を聞いてみようと思います。
できれば月に1度は泊まってあげたい。弟にはなにもできないけれど、せめて母の不安に寄り添ってあげたいのです。
私も子供の親ですから、子供が大病をしたらどれほど不安か想像がつきます。自分より、夫より子供の命を失うのは怖いものです。親よりも先に死ぬのは一番の親不孝と言いますが、子供だけは元気でいて欲しいのです。
弟からの電話がかかってくる30分前に、久しぶりに会ったマダムと話していました。
「お久しぶりですね、少しほっそりなさった?」
「私は年末に死にかけたのよ」
「えー、どうしました」
「欲張りだから、インフルエンザと肺炎と同時になって緊急入院したのよ。意識不明で家族にはここ3日がヤマですって言われたんだって。」
「大変じゃないですか!」
「本人は意識がないんだから、どうってことないわよ。エンマ様に嫌われたんでしょう。三途の川から戻ってきたのよ。それから精密検査だリハビリだって、あちこち回されちゃって」
「一度死にかけたら長生きするって言いますから、もう簡単にはあの世へ行けませんよ」
なんて軽口をたたいていたのです。
その時は他人事でした。明るいマダムでしたので、アハハと笑って別れました。
自分の身内では笑いとばす気になれません。得意の占いも、病気や生死を占うことは禁忌ですから占えません。というか、残酷な結果が出るのが恐ろしくて、占う気になれません。
この件では占うよりも祈るばかりです。
人は誰かのために祈るとき、少しだけ強くなれるのかもしれません。
こんな私ですが、ご依頼いただければ誠心誠意占わせていただきます