(2)「高等教育」の伝統と「大衆教育」の伝統の違い
①「大学」の誕生と「ノブレス・オブリージュ」
大学の誕生~高等教育機関「大学」は、「都市の空気は自由にする」と言われた自由都市の中に発生した「学問をする者の自由なる団体」(学者と学生のギルド)を基礎としています。この学生組合(ウニフェルシタスuniversitas)は「大学university」の語源であり、「組合union」の語源でもあります。当初は聖職者の養成を主要目的としており、国際的な性格を有していて他国の学生も受け入れておりました。国王や法王の認可を受けて特権を付与されており(「ハビタ」)、「大学の自由」(リベルタス・アカデミカ)、「学問の自由」(リベルタス・フィロソファンディ)。という概念が生まれます。ちなみに「自由」は「人権」ではなく、「特権」であることに注意しましょう。かくして、大学は教権・帝王権と並ぶ中世3大勢力の1つとなっていきます。
学生は13~20歳の6年間に「自由学芸」(リベラル・アーツ)の教育を受け、その後、神学部・法学部・医学部のいずれかの学部に進みました。さらに人文学部がありましたが、神・法・医の3学部は人文学部より上位のものとみなされていたのです。
「(大学は)ヨーロッパの精神史・社会史の最高度に独特な現象である。」
(グルントマン)
初期の大学の特徴~
ボローニャ大学(1158年認可)~法学。北部イタリアは国境紛争でドイツと長く抗争を続けたため、法律(特にローマ法)の研究が盛んになりました。
パリ大学(1180年認可)~神学。ノートルダム寺院を中心に、パリ大僧正の監督下に行なわれていた教育が起源です。教授団体を中心に学部(ファクルタス)制を取っており、ドイツの大学もこれにならいました。さらに貧窮学生のための寄宿舎が発展して、教育をも行なう学寮(コレージュ)となったのですですが、イギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学もこの制度を導入しています。
オックスフォード大学(1167年頃、形態を整えました)~パリ大学を手本として作られました。
ケンブリッジ大学(1209年)~オックスフォードから一部の者が移転して作られた。
ナポリ大学(1224年認可)~医学。
チュービンゲン大学(1477年創設)
大学の近代化~大学は当初はスコラ哲学・アリストテレス哲学を学ぶ場でしたが、やがて自然科学と数学の原理の上に立てられた近代哲学、ラテン語を学ぶようになり、さらに各国語、古典的カリキュラムを経て、「学問と教育の自由」を原則としたカリキュラムが確立していきます。
ハレ大学(1694年創設)→ゲッチンゲン大学(1734年創設)→ベルリン大学(1809年、フンボルトによって創設)
ロンドン大学(1828年創設)
大学の3つの機能分化~大学の近代化に伴い、学問研究、人材育成、社会貢献という大学の3つの機能分化が生じてきます。
学問研究~ドイツ型(フンボルトの理想)です。
人材教育~フランス型(国家的エリート養成)です。
社会貢献~アメリカ型(産学協同)です。
ノブレス・オブリージュ(高い身分に伴う道徳上の責任、高貴な義務)~『ローマ人の物語』で作家塩野七生氏は、ローマ帝国千年を支えた根本は「ノブレス・オブリージュ」だったと強調しています。ローマの貴族は社会的責任を負わなければならないという考えが強く、戦争が起これば貴族は率先垂範して最前方に出て戦い、公共の利益のためには貴重な財産を社会に快く提供したと言います。塩野氏は「知性ではギリシャ人より劣り、体力ではケルト人やゲルマン人より劣り、経済力ではカルタゴ人より劣っていたローマ人が、永らく巨大帝国を維持できた原動力は社会指導層の役割だった」と主張しているわけですが、これは「エリート教育」(フランス語で「エリート」は「選ばれた者」という意味)が「選民意識」が生み出すと考えてもよいでしょう。
マーチン・トロウの先進工業国の高等教育(大学)分析~アメリカに典型的に当てはまり、ヨーロッパその他では当てはまらないと見られていますが、この視点は多分に示唆的です。
エリート型~特権教育の段階。適齢人口中の学生比率が15%まで。
マス型~大衆教育の段階。適齢人口中の学生比率が15~50%まで。
ユニバーサル型~「権利」というより「義務」として意識される段階。適齢人口中の学生比率が50%以上。
日本の現状~日本では高校進学率は98%に達し、「高校義務教育化」が長らく議論されてきましたが、これは「高校」を「マス型」から「ユニバーサル型」に変えようじゃないか、ということに他なりません。ところが、そうこうしているうちに大学進学率が約50%(首都圏では60%以上)となり、何と「大学」が「マス型」から「ユニバーサル型」に変わってしまう可能性が出てきてしまったのです。
【参考文献】
『大学史(上)(下)』(ステファン・ディルセー、東洋館出版社)
『ヨーロッパの大学』(島田雄次郎、玉川大学出版部)
『日本の教育 ドイツの教育』(西尾幹二、新潮選書)
『日本人とフランス人 「心は左、財布は右」の論理』(舛添要一、光文社)
『大学とアメリカ社会 日本人の視点から』(中山茂、朝日選書)
『世界の大学危機 新しい大学像を求めて』(潮木守一、中公新書)
『教育思想史』(中野光・志村鏡一郎編、有斐閣新書)
『教職のための教育史 西洋編』(溝口貞彦、東研出版)
『西洋教育通史』(皇至道、玉川大学出版部)