「よく分かる宇宙論の歴史~人類最大のロマンは宇宙の「根源」にある~⑫」

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(4)相対性理論と量子力学が統一される初期宇宙:物理学

③宇宙の「根源」は「一即多、多即一」「ゼロ論と無限論」の場

「特異点」のジレンマ~自然は「質量」がゼロや無限大になることを嫌います。科学は「始まりの問い」を避けてきましたが、なぜでしょうか。
 「アインシュタイン方程式」を解けば、時空が200億年前(現在ではおよそ140億年前と言われています)に始まったという年代まで出てきます。つまり、200億年さかのぼれば、始まりの瞬間を見ることができるということになります。ところが、残念ながら、時刻ゼロの瞬間は、「アインシュタイン方程式」でも分かりません。なぜなら、時刻ゼロの瞬間においては物理法則が破綻してしまい、物理法則が役に立たなくなってしまうからです。「宇宙の体積」「宇宙にあるエネルギーと物質の密度」「宇宙の年齢」の関係で言えば、「宇宙の年齢」を時刻ゼロに近づけていくと、「宇宙の体積」は小さくなってゼロに近づき、逆に「宇宙にあるエネルギーと物質の密度」は大きくなって、無限大に近づいていきます。そして、最後に時刻ゼロになると、不思議な矛盾にぶつかるのです。「何もないところから、無限大のエネルギーが出てきた」ということ、つまり、ゼロと無限大が同居しているというわけです。これを「始まりの特異点」と言い、現在の科学者を悩ませる最大の難問なのです。
 「アインシュタイン方程式」が出来てから、半世紀の間、「特異点」の問題は誰も研究の対象として取り上げませんでした。「特異点」は単なる数学上のパラドックスで、現実には存在しないと思われていたのです。しかし、1965年になって、そうした定説はくつがえされ、オックスフォード大学のロジャー・ペンローズは、「特異点」の問題こそ、現代の科学にとって最も深刻な課題であることを主張したのです。ペンローズが突きつけた問題は、科学にとって極めて深刻なもので、「特異点」から逃れることができないことを、ペンローズは完璧に証明してしまったです。「特異点」の問題が解明されない限り、「始まりの問い」はもはや科学者には絶対に解けないのです。アインシュタインも「特異点」のことは知っており、「特異点」には問題があると言って、悩んでいました。

「宇宙は、いわゆる『特異点』からスタートしました。もしも、宇宙が数学的に単純で、なめらかな形をしていると仮定すれば、過去にさかのぼると、『特異点』が出てきてしまいます。『特異点』では、時空のゆがみが無限大となり、方程式はだめになります。そこから先は、科学では分かりません。でも、実際の宇宙は、複雑で、でこぼこしているかも知れません。だから、『特異点』など存在しないだろうと、みんなが考えていました。でも、実は違うのです。私とホーキングが見つけた『特異点』の定理では、宇宙がどんな形をしていようが、絶対に『特異点』を避けることはできないのです。」(ペンローズ)
超ひも(弦)理論~「特異点」を回避するための理論です。重力を記述する一般相対性理論と物質のミクロな振る舞いを記述する量子力学の折り合いをつけるというのは物理学者を悩ませていた大問題ですが、「超弦理論」はそれを解決する可能性をもった理論です。「超弦理論」には5つの種類があり、それぞれI型、IIA、IIB、ヘテロSO32、ヘテロE8×E8と呼ばれています。この5つの「超弦理論」は理論の整合性のため、10次元時空が必要です。通常の3次元に時間を加えた4次元に加えて、残りの6次元は量子レベルで巻き上げられていて小さなエネルギーでは観測できないとされます。また、11次元超重力理論をその極限に含んだM理論は、さらに1次元を加えて合計11次元を必要とする。これら6つの理論は様々な双対性によって互いに繋がっています。弦の振動は、量子レベルで巻き上げられていている6次元により制約を受け、その振動の形により、特定の量子を形作っています。「超弦理論」では基本的物体は1次元の弦でしたが、M理論では加えられたもう1次元によって、基本的物体は2次元の膜であると提唱されています。
 また、「超弦理論」で表記される10次元中にはDブレーンと呼ばれる様々な次元のソリトンが存在します。Dブレーンは元々一次元の弦が端点を持ちうる空間として定義されているですが、重力子(グラビトン)等の閉じた弦はこの超空間に依存せずにブレーン間を往来します。この描像を宇宙論に適用した理論は、「ブレーン・ワールド」と呼ばれ、典型的な模型では我々はこのDブレーンの上に住んでいることになります。また、このモデルでは、量子力学で使われる3つの力に対して、何故重力が極端に弱いのかを説明がつけられるとしています。つまり、本来他の3つの力(電磁気力、弱い力、強い力)に比較して弱いのは、他の次元にその大半が逃げてしまっているためと考えられるのです。
 これに関連して、例えば宇宙論のインフレーションをブレーンの運動で捉えるなど、様々な研究がなされています。なお、ビッグバンは我々の存在する宇宙が所属する膜と他の膜の接触によるエネルギーが原因で起こったとするモデルもあり、エキピロティック宇宙と呼ばれています。通常のインフレーションを導出しようとする試みも進行中です。
 「超弦理論」は重力の量子論であるため、ブラックホールのエントロピーに関する問題にも答えています。ブラックホールのエントロピーは表面積に比例していますが、この事実をDブレーンに張り付いた弦の状態を数え上げる、という方法で導き出しているのです。これは熱力学のエントロピーを統計熱力学の手法で導き出すことに対応しています。

「ゼロ論」と「無限論」を組み込んだ理論でなければ宇宙の「根源」は扱えない~物理学的難問である「特異点」を回避するのではなく、組み込んだ理論が出来ない限り、宇宙の「根源」を説明することは出来ません。既存の理論は全て結果としてそこにある宇宙の「法則」を説明せんがためのものであり、howに属する議論ですが、「なぜそこにあるのか」といったwhyに属する議論は数学的には「ゼロ論」と「無限論」を包括するものとなるのです。

「華厳経において法蔵は相入と相即についてこう述べている。
相入とは一の中に多があり、他の中に一があるということをいい、相即とは一即多、多即一のことをいう。普通の常識では、一に一を加えると二ができるように考えられるが、それは間違いであり、そんなことはありえない。と言うのは、一に一を加えると、一つが二つ集まったものに過ぎないもので、一つが増えたというだけであり、二という一つの自然数にはならない。
 新しい自然数は一を足すことによって出来るが、単に一を足したばかりでなく、一を足した全体を同時に直感することによって、二という自然数が生まれるのである。それではそのような直感はどのようにして可能となるのか?それは一の中には二ないし十の意義を具有しているから、一がよく二ないし十を成ずることができる。一の中には二・三・四・五が備わっているのである。そこで一といっても、それは二以下と切り離されて単独に存在しているものではなくて、二以下と相対することによって一であるのである。法蔵はこれを「縁成によるが故の一」であるというが、一という自然数、二という自然数が成り立つためには、他の自然数との関係において成り立つのである。しかも一という時には、一の中に他の自然数全体が内包されている。これを相入というのである。
 つぎに任意の自然数の一つを取り出すと、その任意の自然数が自然数全体をあらわし、任意の自然数と自然数全体が相即することを明らかにする。一をたてると、一は絶対の主体となり、二以下は依存従属の関係に入らなければならない。一は有力となり、二以下は無力となる。それによって一即二。一即三。・・・一即無限数が可能となる。次に二を主体として考えると、一および三以下は二に従属する関係になる。二が有力のとき、一および三以下は無力となり、二の中に吸収される。そして二即一、二即三、・・・二即無限数が可能となる。このような関係を一即十、十即一、というようにあらわすのが相即ということである。ちなみに華厳では十を円満完全な数、無限数とみなして十銭の喩えを説いたのである。」
(鎌田茂雄『華厳経物語』)

【参考文献】
『物質をめぐる冒険 万有引力からホーキングまで』(竹内薫、NHKブックス)
『アインシュタイン・ロマン4 悪魔の方程式 宇宙創成への問い』(NHKアインシュタイン・プロジェクト、日本法放送出版協会)
『図形雑学 相対性理論』(佐藤健二監修、ナツメ社)
『図形雑学 量子力学』(佐藤健二監修、ナツメ社)
『ハイゼンベルク 二十世紀の物理学革命』(村上陽一郎)
『量子力学の世界 はじめて学ぶ人のために』(片山泰久、講談社BLUE BACKS)
『10歳からの量子論 現代物理をつくった巨人たち』(都筑卓司、講談社BLUE BACKS)
『量子の謎をとく アインシュタインも悩んだ・・・』(F.A.ウルフ、講談社BLUE BACKS)
『量子力学が語る世界像 重なり合う複数の過去と未来』(和田純夫、講談社BLUE BACKS)
『超ひも理論と「影の世界」 見えない!さわれない!謎の世界』(広瀬立成、講談社BLUE BACKS)
『超ひも理論とは何か 究極の理論が描く物質・重力・宇宙』(竹内薫、講談社BLUE BACKS)
『はじめての<超ひも理論> 宇宙・力・時間の謎を解く』(川合光、講談社現代新書)
『イラスト「超ひも」理論 図解でいっきにわかる!宇宙論の最先端』(白石拓解説、宝島社)
『入門超ひも理論』(広瀬立成、PHP)
『エレガントな宇宙 趙ひも理論がすべてを解明する』(ブライアン・グリーン、草思社)
『ゼロから学ぶ物理の1、2、3』(竹内薫、講談社)
『現代物理の世界がわかる アリストテレスの自然哲学から超弦理論まで』(和田純夫、ベレ出版)
『華厳経物語』(鎌田茂雄、大法輪閣)
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