コラム88 新しい物好き

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 私はとにかく新しいものが好きで、カテーテルの道具など新製品が出ると飛びついて試して見たくなります。10年ほど前に所属していた部署の上司がこれまた新しいものが大好きで、その影響をもろに受けたのだと思います。 
 その上司はとにかくカテーテルが上手で大学の医局の中でも右に出るものはいないくらいの人物でした。その人物に憧れて私もその上司のもとで修行をしていたのですが、その時新しい道具にすぐ飛びつくその上司を見て、結構びっくりしたのを覚えています。それまでの私は至って一般的な道具の使い方や手技の方法であったと思います。カテーテルの手技は好きだったけれども、それまでに教わったことを踏襲し無難にこなしていくことが常でした。ところが、カテーテルが好きでテクニックを多く持っている上司は何でもかんでも新しい道具が出るとそれを試してみて、いいとか悪いとか批評を常々行っていたと思います。その姿を最初に目の当たりにした時は、私自身そんなに次から次へと新しいものに手を出さなくても、とやや批判的な視線を送っていました。実際に新しいことをしなくても患者さんを安全かつ適切に治療できていましたし、何より新しいことは覚えることが増えて面倒だと感じていたからです。
 しかし、長い年月その上司と一緒に仕事をしていて、だいぶ考えが変わっていきました。まず、何より手技が上手だと、新しいものを使うのに抵抗が少ないことに気がつきました。もともとの手技に余裕があるから新しいものでもそれほど苦にならず応用が効くのだと思います。ちょっと考えをアレンジするだけで道具をほぼ初見であっても使いこなすことが容易なのだと思います。この点は見習うことが大きいなと自分自身感心したのを覚えています。次に、新しい知見を手に入れることで視野が広がるということがだんだんわかってきました。既存の道具と新しい道具を両方試すことで、どう違うのかどう使い分けるのかどちらが個々の患者さんに適切な道具なのか判断することができる様になると、やはり治療の幅が倍以上に広がる感覚なのだと思います。カテーテル好きの上司はとてつもなく引き出しが多く、困ったときに頼りになる印象でしたが、この引き出しの多さは新しいものを常に試してみるような姿勢により養われていくのだと知りました。さらに、最先端の手技や道具を使って治療することは、学会発表や論文作成の重要なネタになるとも言えます。大学病院などはその傾向が特に強いですが、各医療機器メーカーさんがこぞって最新の機器を持ってきてくれたりします。そのデータを蓄積し学会や論文として発表することが医師としての使命でもあります。心臓の治療なので新しいものに見境なく飛びつくのは躊躇われる場合も多いのですが、やはり最新の機器を使いこなして治療しようとする姿勢も医学の発展には必要なことなのだと感じました。もう一つ最後に付け加えるとすると医療機器を作る会社との交流が深まる点も重要だと思います。最新の医療機器を使うことはその新しい道具に精力を注いだ人々への評価をすることにつながります。良い評価であれ悪い評価であれ、新しい医療機器を作るメーカーにとってはとても重要な点です。そして新しい機械を使ってくれる医師はそういった医療機器メーカーにとってはとても貴重な人材ですので、リストアップされ、常に新しいものの情報をメーカーさんから収集することが可能になります。情報は今の社会でとても重要であるのは周知の事実です。この点も新しい物好きの大きなメリットだと思います。
どうしても医学は日進月歩であるため、時代の波についていかなければなりません。しかし、だんだん経験を積んでくるのと並行して、徐々に新しい知見や道具を取り入れる姿勢は少しずつですが誰でも衰えてくるものです。しかしそこは歯を食いしばって、どんどん新しいものを取り入れていかないと、いつの間にか時代遅れの治療法をずっと行っている世間知らず医師になってしまいます。幸いそのカテーテル好きの上司のおかげで私もカテーテル治療が好きになりましたし、新しいものを積極的に取り入れることに注目し、神経を集中するようになることができました。今後もどんどん新しい物好きを進化させていければと考えています。

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