コラム87 大人の成績表

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 「成績表」という言葉を聞くと、誰しもが学生時代を思い出すものです。国語、算数、理科、社会、英語といった教科で評価され、成績表に書かれた数字に一喜一憂したあの日々。テストでいい点を取れたら親に自慢し、悪い点数はどうにか隠せないかと考えたこともありました。でも、大人になった今、もうそんな成績表は手元にありません。仕事や家庭の中で、評価や成果を問われることはあるけれど、学生時代のように「総合評価」として一目でわかるものはなくなりました。しかし、もしも大人にも成績表があったら、どんな教科が並ぶのでしょうか?私が思うに、大人の教科は次の四つです。お金、社会的地位(名誉)、人間関係、そして教養。この四つを通じて、大人の人生を少し考えてみたいと思います。 
1. お金(大人の算数)
大人にとって、お金は避けて通れないテーマです。学生時代の算数や数学が、大人になると「お金」という現実的な問題に姿を変えます。収入や貯蓄、投資、そして支出の管理。これらをうまく操ることができれば、それは一種の「経済力」として評価されるでしょう。しかし、お金を稼ぐだけが全てではありません。稼いだお金をどう使うのか、どのようにして自分や家族、そして周りの人たちに還元するのか。その使い方こそが、大人の知恵を試される部分です。投資信託や株式でリターンを得るのも一つの方法でしょうが、家族旅行や子どもの教育、そして自分自身の成長のためにお金を使う選択もまた、立派な使い道です。
2. 社会的地位(名誉という教科)
「社会的地位」や「名誉」という言葉には、どこか重みが感じられます。大人になってからは、職場や地域社会における肩書きや役割が、個人の存在を大きく左右します。これは、いわば「社会における自分の位置付け」を表すもの。医師である私もまた、日々この名誉という教科の重さを感じています。社会的地位というのは、単に肩書きや職業のことを指しているわけではありません。それは「自分が社会にどんな影響を与えているか」「どれだけの人に信頼され、尊敬されているか」という広い意味を含んでいます。例えば、地域の活動に積極的に参加し、周りから信頼を得ている人も、立派にこの教科で評価されるべきでしょう。そして、医師や弁護士、企業の経営者などの「肩書きが立派」とされる職業であっても、その人が社会にどう貢献しているかが重要です。単に名刺の肩書きだけが評価されるわけではなく、その肩書きを活かして誰かの役に立つこと、社会にポジティブな影響を与えることが求められます。実際に現場で働いていると、名誉や肩書きだけでは計り知れない価値があると感じます。例えば、救急の場面で患者さんから「助かりました」と感謝の言葉をもらうと、社会的地位とは異なる種類の充実感があります。この瞬間、自分が「役に立った」と実感できるのです。社会的地位という教科の面白いところは、その評価基準が一人一人違うことです。大きなプロジェクトを成功させることにやりがいを感じる人もいれば、身近な人々に寄り添い、支えることに喜びを見出す人もいるでしょう。名誉を追い求めることが大切なのではなく、その人がどのように社会と向き合い、自分の役割を果たしているかが問われます。
3. 人間関係(大人の国語)
「人間関係」は、まさに大人の「国語」にあたります。学生時代の国語では、言葉の意味や使い方、相手の気持ちを読み取る力が問われましたが、大人になるとそれがさらに複雑になります。職場での同僚、家庭での家族、そして友人や近隣の人々…。私たちは日々、さまざまな場面で人と接し、その中で自分をどう表現するかが求められます。大人の人間関係では、単に表面的な付き合いを続けるのではなく、信頼関係を築くことが大切です。長年一緒に働いてきた同僚や、友人・家族と人それぞれの方法で関わりを持ちそれを継続していくこと。人との絆を大切にし、自分らしくいられる関係を築くことこそ、この教科での成功といえるでしょう。
4. 教養(大人の理科と社会)
教養は、大人になっても続く「理科と社会」のようなものです。医師として新しい医学知識を学び続けることももちろんですが、それ以外の分野にも目を向けることが、この教科では求められます。音楽、歴史、アート、そして旅行先で見つけた新しい文化…。教養は、私たちの心を豊かにし、視野を広げてくれます。「何歳になっても学び続ける姿勢」が、教養という教科では大事にされます。学ぶことで、世の中を見る目が変わり、新しい価値観や感性に触れることができます。大人になると、学生時代のように「これを覚えなければならない」という義務感ではなく、「知りたいから学ぶ」という喜びが教養の根底にあります。
このように、大人の成績表はとても多様であり、評価基準も一人ひとり異なります。お金を稼ぐ力も、社会的地位も、人間関係も、教養も、どれも大切な教科です。そして、これらの教科には明確な正解がありません。大人の成績表は、誰かに見せるためではなく、自分自身と向き合うためのものです。学生時代の成績表は誰かに評価されるためのものでしたが、大人の成績表は、自分がどう生きたいか、何に価値を置くかを映し出す鏡のようなものです。それぞれの教科に対する価値観が異なるからこそ、私たちの人生には無限の可能性があります。今日もまた、人生という教室で新しい発見をし、失敗をして、成長していく。そうして少しずつ、自分自身の成績表を作り上げていくのです。そして、その成績表を手に「自分らしく生きた」と誇りを持って言えるように、日々を過ごしていきたいものです。

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