契約書の作り方 ―行政書士による解説―

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法律・税務・士業全般

1.はじめに

 契約書の作成にあたっては、契約内容の検討からはじまり、印紙税法上の義務などの法令上の定めの他、製本・押印の仕方などについては、法慣習や商慣習によって規律されている部分も多く、格式の整った契約書を作成するには、知識が必要となります。本稿では、こうした契約書の書き方・作り方について基本的事項を解説します。

2.契約書の構成

 契約書は、以下のような構成をとることが一般的です。場合によっては、冒頭に合意事項を一覧できる早見表を添付するなど、契約書管理上の便宜のため、図表や別紙形式で添付資料を活用することも考えられます。

前文:契約当事者および契約に至る経緯とともに、契約の目的について記載します
実体条項:取引に関わる当事者の権利義務について記載します
一般条項:損害賠償責任、有効期限など、契約の一般的事項について記載します
後文:契約書の通数や正本・副本の別について記載します
記名押印:両当事者が記名押印する欄を用意します

前文
 前文としては「株式会社○○(以下「甲」とする)と株式会社○○(以下「乙」とする)とは、甲の○○業務の乙に対する業務委託に関して、以下の通り合意する」など、契約の当事者と内容が一読して判別できるように簡潔に記述します。
 場合によっては「株式会社○○(以下「甲」とする)と株式会社○○(以下「乙」とする)とは、甲において、乙に対する○○に関する研究開発業務の委託の可能性について検討するため、乙による技術情報の開示と甲による秘密の保持について、以下の通り合意する」のように、契約の目的について詳細に記述することが、むしろ望ましいこともあります。秘密情報の目的外使用を禁止する必要がある秘密保持契約書のように、契約の目的が当事者の権利義務に影響を及ぼす場合などが、このようなケースに当たります。

一般条項
 一般条項としては、必要に応じて以下のような条項を置きます。どの一般条項を契約書に記載し、どの条項を記載しないかは、当事者の経済的な信用力や信頼関係の程度にもよります。

損害賠償責任
不可抗力免責
秘密の保持
期限の利益の喪失
契約の解除・解約
反社会的勢力の排除
有効期間・残存条項
完全合意
誠実協議
仲裁
裁判管轄

 なお一般条項については、雛形の転用をすることが多いと思われますが、当事者の間での責任の所在や有事の対応など、重要な事項に関する合意を含むため、相手方との既存の取引関係の有無や取引相手としての重要性、自己の資力などに応じ、個別案件毎に検討することが望ましいと言えます。

後文
 後文としては、「以上を証するため、本契約2通を作成し、各当事者が記名押印の上、各1通を保有する」のように、契約書の通数などを記載します。一般的には二通となると思われますが、当事者が三者であれば、当然三通必要となります。

記名押印
 記名押印とは、署名によらずに氏名や名称を記載し、それに対して判子を押印することです。なお「署名」とは、自筆で氏名や名称を自書することです。そのため、あらかじめ印刷された氏名や名称の横に押印する形式の場合には「記名押印」となります。「記名捺印」「署名捺印」などの言い方もありますが、その法的効力や格式に特段の差異はありません。

 このような署名の効力については、民事訴訟法により定められていますが、「署名」であっても「記名押印」であっても、証拠価値に高低はなく、いずれもその文書が当事者の意思表示であると推定されます。

 押印に当たって使用する判子は、登記に用いる書類などでない限り、実印・認印のいずれであっても差し支えありません。海外の当事者の場合、押印の代わりにサインを求めることもあります。また契約を電磁的記録の形式で行う場合には、電子署名法により、電子証明書を付した「電子署名」であっても、「署名」や「記名押印」と同等の証拠力が認められています。

 なお法人の場合、記名押印する代表者ないしは代理人は、その契約に関して法人の代理権を有している必要があります。一般的には「代表取締役社長」「○○業務担当取締役」などの役員の名義によるべきと考えられますが、内部的に代理権を有する場合には「法務部長」「○○部長」「○○支店支配人」などの役職者によることも可能です。

3.契約内容の検討

 契約内容を検討するにあたっては、契約の目的を意識し、委託者か受託者か、ライセンサーかライセンシーかなど、その契約における立場を踏まえて、それぞれの契約条項を検討しなければなりません。

権利利益を侵害されるリスク
 契約は当事者がWin-Winの関係を目指して自由意思により締結するものですが、企業規模や資金力などにより、交渉力において劣後する当事者が、不当にその権利利益を侵害されてしまうことがあります。そのためこのような場合においても、とりわけ危険負担や瑕疵担保責任など、取引の実行に何らかの瑕疵があった場合に、そのリスクをどちらが負担するのかについての合意は、自己の立場に不利益のないものとする必要があります。また品質保証の名目で製造方法や顧客リスト、仕入れ先などの本来秘匿するべきノウハウや秘密情報を相手方に不当に取得されることがないかどうかなど、個々の条項の文言が有する射程についても、自己の権利利益を防衛するという観点から精査しておかなければなりません。

過大な要求のリスク
 なお契約書の内容は自己にとって不利益なものであるべきではありませんが、一方で相手方に対して過大な要求を含む契約書である場合、独占禁止法や下請法ないしは不正競争防止法などにより、かえってその合意が無効とされてしまうリスクがあります。また相手方に実務上実行不可能な義務を強いる内容の場合にも、争訟となったときに、裁判所によりその内容を限定的に解釈されるおそれがあります(秘密保持契約の内容として受領した情報全部について開示の禁止を定めていた場合、その合意を無効とする判例など)。
 また事業の継続のために必要不可欠な取引についての契約においては、事後において紛争が生じること自体が、むしろ自己にとって不利益に働く可能性もあります。このような事業の存続にかかわるような重要な契約書においては、あいまい不明確な文言を使用しないようにすることとともに、過大に有利な内容の条項がないかどうかについても検討しておくことが望ましいと言えます。

製造物責任
 消費者向けの物品の売買取引のように製造物責任法上の責任が発生するケースにおいては、仮に第三者から損害賠償を請求されたときに、当事者のどちらがその危険を負担するのかについて明確にしておかなければなりません。そもそも製造物責任法上の製造業者に該当するかどうか、そしてその責任を負担する資力や能力があるかどうかの検討をした上で、第三者から損害賠償請求を受けた場合の相手方に求償することができるかどうかといった点も含めて、責任の所在について契約書中に記載しておく必要があります。

4.印紙の貼用について

 契約書が印紙税法上の「課税文書」である場合、契約書に収入印紙を貼り、「消印」をする必要があります。収入印紙を貼る位置としては、契約書の表題の左上の余白などに貼ることが多いと思われますが、この点は当事者で自由に決めることができます。

 消印の方法としては、その契約書の当事者又は代理人が、収入印紙と文書のどちらにも印影が重なるように押印することにより行います。収入印紙を貼っただけでは、収入印紙を転用する可能性があるとされるため、消印までしなければ、印紙税法上の義務の履行とならないことに注意が必要です。

 主な課税文書としては、請負契約書(第2号文書)、継続的取引に係る契約書(第7号文書)、不動産売買契約書(第1号文書)、知的財産権譲渡契約書(第1号文書)などが挙げられます。

5.契約書の割印・契印

 契約書を2通以上作成する場合には、それぞれの契約書が対になる存在であることが明らかとなるように、当事者のそれぞれが「割印」を行います。割印は、2通の契約書を重ね合わせ、そのいずれにも印影が重なるように押印をすることで行います。一般的には、契約書の表題の上部の余白に行います。

 また1通の契約書が2枚以上の紙で構成されるときは、それぞれの紙が差し替えられていないことを証明するために、「契印」を行います。契印は、2枚のページのそれぞれに印影が重なるように、ページの継ぎ目に押印することで行います。製本を袋とじの方法により行った場合には、袋とじの帯部分にのみ契印をおこなうこともあります。

6.契約書の製本

 1通の契約書が2枚以上の紙で構成されるときは、契約書の製本を行います。契印を各ページに行った場合、ホッチキスで綴じたのみでも差し支えはありませんが、ページ数が多い場合や契約書の格式を整えたい場合には、さらに袋とじなどの方法により製本を行います。
 袋とじにより製本をする場合、ホッチキスによりページを固定した後、契約書の左端に袋とじ用の帯を表紙と裏面にまたがるように貼りつけ、帯の余った部分を切り取ることにより製本をします。また市販の製本用のテープを用いることにより、糊付けなどの手間を省き、より見栄えの良い製本を行うことができます。

7.契約書の郵送

 契約書の作成が完了した後は、その契約書を相手方に郵送し、記名押印の処理を行います。あらかじめ自己の記名押印欄への押印及び割印・契印処理を行った契約書を2通送付した上で、いずれにも相手方に記名押印をしてもらい、そのうち1通を返送してもらう方法が広く行われています。

 なお郵送の方法としては、ゆうパックなどを利用する方法の他、原則としては簡易書留などにより追跡可能な郵送サービスを利用することが安全です。郵送に際しては、内容物の過誤に備えるため、同封書類の一覧を示した送付状を添付することが望ましいと言えます。

8.契約書の保管

 当事者による押印が完了した契約書は、その後の取引の実行や事後の紛争に備え、保管を行います。契約書類の保管に関しては、会社法の他、法人税法などの税務関連法規において保管期間が法定されています。合併契約書など会社法上の書類に関しては10年間、一般の取引契約書に関しては、法人税法において原則7年間とした上で、欠損の繰り越し処理との関係で、欠損金が生じた事業年度に関しては10年間とされています。また雇用関連の契約書については、労働基準法により5年間の保管義務が課せられています。

 なお契約書を含む税務関係書類の保管に際して電子帳簿保存法により、税務署の事前承認の下で原本のスキャン保存が認められていましたが、令和4年1月1日施行の法改正により、税務署長の事前承認は不要となりました。システム関係書類の備え付けなど一定の要件のもと、スキャン保存が認められています。ただしこれらの法効果はあくまで税務関連に限られるため、事後の紛争予防という観点からは、民事訴訟法に基づき原本を提出できるよう、できる限り原本を保管しておくことが望ましいと言えます。

9.メル行政書士事務にできること

 メル行政書士事務所では、契約書の作成に関して、以下のサービスを提供しています。契約書についてお悩みの際は、まずはお気軽にご相談ください。

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