サンプルテキスト「ユートピア」

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SPL惑星の見える夕空.jpg
遠く太陽が沈んでいく。
「夜」が来る街は、それぞれを着飾る様に明かりを灯しだした。

遠く見える太陽を遮るように、巨大な惑星達が傾きながらその姿を逆光気味にして輪郭へ光を宿す。
土星と木星、だったかな。

季節によっては大きさが若干変わるが、まぁさほど驚くことでも無いんだよね。
当たり前の風景、当たり前の空。
年寄り達は「ふるさとの空は青くて美しかった」と良く懐かしそうに話してくれるけど、いやいや今の赤みがかった空もキレイだと僕は思うよ。
まぁ、時折砂嵐が起きたり普段からやたら強い風が吹いているけど、僕らの世代からすれば「普段通り、いつもの事」だ。

人類が老人達が言う「ふるさと」を見放し、大混乱の中でたどり着いたのがここ。
自業自得の果てなのに、誰もそれを恥じたり後悔する事がない。
きっと、それだけ人って傲慢なんだろうな。
まだ「ふるさと」に居た頃、新天地での土地の所有権で揉め技術を奪いあい、紛争が起きたのは何世紀も前の話だ。

やっとこさ平和になったと老人達は言う。
大昔には実現出来なかった技術は成果を示し、資源も共有になり…人の生活は豊かになったと授業で先生が言ってたな。
もはやクニ、と言う概念は無くなりこの惑星の全てがひとつとなって随分と
経つんだけど、そもそもヘイワって単語自体良く判らなくてね。
整った街。欲しいものは手に入るし、行きたい所には気軽に旅行も出来る。
ああ、シアワセとか言う死語もあったな。それと似たような意味なのかな。

太陽は、「夜」になるとその3分の2を地平線に埋め込んだ感じになるんだけど、ソレには理由がある。
「ふるさと」が有った頃から比べてだんだんと膨れ上がり巨大化しているんだそうだ。
おかげで太陽に飲み込まれてしまい、昔は8つ程の惑星があったのが今じゃ5つになってる。
かなり距離が近くなっちゃったもんだから真っ暗な夜と言うものは無くなったんだよと学校の授業で習ったな。
巨大化し距離が近くなった太陽のおかげで年々気温が上がってきてるって言ってたっけか。
でもさ、真っ暗な夜って何だろう?それじゃみんな動けなくて不便じゃんか。

そんな事をぼんやり考えて散歩していると、突然サイレンが響き出した。
「太陽フレア警報」と呼ばれているんだけど、何十年か前から良く出る警報なんだそうだ。
猛烈な電磁波だったか何だったかで外に居るとヤバいらしい。
おかげで、警報の度にシェルターに避難しなくちゃいけないけど…もう慣れちゃったかな。

おっと親父から電話が来た!やべぇ、怒られる前にシェルターに急ごう。


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