45歳を過ぎると、多くの人がうすうす感じ始めます。
このまま今の会社、このまま今の働き方で、本当に大丈夫だろうか?
でも同時に、毎日は忙しく、目の前の仕事を回すだけで精一杯になりがちです。
私は、45歳以降に必要なのは、いきなり転職を決断することでも、資格を山ほど取ることでもないと思っています。
本当に大切なのは、自分のキャリアの選択肢を減らさないことです。
これを私は、キャリア防衛と呼びたいと思います。
45歳以降は「守るべきもの」が一気に増える
45歳を過ぎると、仕事だけ見ていればいい時期ではなくなります。
会社では責任が重くなり、家庭では教育費や住宅ローンが気になり、自分の老後資金づくりも無視できなくなります。そこへ親の高齢化が重なってきます。
厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査では、一般労働者の賃金は45~49歳で37.79万円、50~54歳で38.88万円、55~59歳で39.62万円となっており、男性では55~59歳で44.56万円がピークです。
つまり45歳以降は、まだ収入を積み上げられる時期である一方で、その後の減少も視野に入り始める時期でもあります。言い換えれば、この先10年の働き方が、そのまま老後の土台に響きやすい時期なのです。
だから45歳以降のキャリア防衛は、単なる昇進や転職の話ではありません。
収入を守ること、働き続けること、親のことが起きても崩れにくくすることまで含めて考える必要があります。
いま起きているのは「仕事が消える」より「仕事の中身が変わる」こと
AIの話になると、「自分の仕事はなくなるのか?」と考えがちです。
でも、日本の現実を見ると、先に起きやすいのはそこではありません。
OECDの2025年レポートでは、日本で職場でAIを使っている労働者は8.4%にとどまる一方、AI利用者の35.8%が仕事の成果や働く環境の改善を感じているとされています。つまり、AIはまだ全員の仕事を一気に奪っているわけではありませんが、使える人と使えない人の差を少しずつ広げ始めていると見る方が現実に近いのです。さらに同レポートでは、非正規雇用や高齢の労働者は、AIを仕事で使う機会も、恩恵を受ける機会も少ないと指摘されています。
ここが、45歳以降の怖さです。
仕事が明日なくなるのではなく、今やっている仕事の中の書く、まとめる、調べる、説明する、といった部分から、静かに変わっていく。
その変化に乗れないと、同じ職種名のままでも評価や役割が変わっていきます。
しかも、会社が自然に守ってくれるとは限らない
「会社の中にいれば、そのうち何とかなる」
この前提も、少しずつ崩れています。
IPAの2025年調査では、日本企業ではAI関連人材が不足している状態が続いており、特に従業員100人以下の企業では、生成AIについて『関心はあるが予定はない』『今後も予定はない』の合計が8割近くにのぼっています。別資料では、日本の中小企業で生成AIに取り組んでいる割合は「47%」にとどまり、米独より低い水準です。
つまり、企業によってはAI活用が進んでおらず、社員が変化に対応する機会そのものが少ない場合もあります。
さらに経済産業省の資料では、リスキリングの主体は20代・30代が約8割を占め、「40代は14%、50代は6%」にとどまるとされています。
必要性を感じていても、年齢が上がるほど学び直しに手をつけにくい。ここに、45歳以降の現実があります。
だからこそ、45歳以降のキャリア防衛は、「会社に期待すること」より先に、
自分で守るべきものを整理することから始めた方がいいのです。
そして、親のことが起きると「学ぶ余裕」から先に失われる
ここで見落とされがちなのが、親の介護準備との関係です。
総務省の令和4年就業構造基本調査では、介護をしている人は628.8万人、そのうち有業者は364.6万人でした。さらに、家族の介護・看護を理由とする離職者は10.6万人です。経済産業省も、2030年には仕事をしながら家族介護を行う人、つまり本連載でいうワーキングケアラーが約318万人にのぼり、経済損失は約9兆円になると示しています。
AI時代のキャリア防衛には、
新しいツールに慣れること、
学び直しを続けること、
役割の変化に対応すること、
が必要です。
でも親のことで通院付き添い、実家対応、入院や退院の手続きが始まると、最初に失うのは給料より先に、時間、集中力、学ぶ余裕です。
だから私は、45歳以降のキャリア防衛は、親の介護準備とセットで考えた方がいいと思っています。
では、何を守ればいいのか
45歳を過ぎたら、守るべきものは4つあります。
一つ目は、今の収入源です。
二つ目は、今後も通用する仕事の中身です。
三つ目は、働き続けるための制度と余力です。
四つ目は、親のことで崩れない生活基盤です。
たとえば、47歳の会社員がいるとします。
いまは管理職手前で、仕事は忙しいけれど順調。
ただ、資料作成、会議の取りまとめ、報告書の文案づくりなど、AIで変わりやすい仕事も多い。
そこへ親の通院付き添いが始まったらどうなるか?
勉強時間が減り、社内異動や新しいツールへの対応が遅れ、昇進や評価のタイミングを逃しやすくなる。
ここで大事なのは、「自分の能力が急に下がった」のではなく、変化に対応する余裕を失ったという見方です。
キャリア防衛は、この余裕を守ることでもあります。
基本戦略1 自分の仕事を「職種名」ではなく「作業」で棚卸しする
まず必要なのは、自分の仕事を細かく見直すことです。
営業、事務、管理職、技術職、といった職種名だけで考えていると、変化の中身が見えません。
見るべきなのは、
定型作業なのか、
判断が必要な仕事なのか、
対人調整が中心なのか、
AIの下書きを活かせるのか、
です。
AI時代は、「自分の職種が残るか」より、自分の仕事のどの部分が価値として残るかを知る方が重要です。OECDが示すように、今の焦点は一律の雇用喪失より、仕事のやり方や必要スキルの変化にあります。
基本戦略2 学び直しは「大きく」ではなく「小さく固定」する
45歳以降は、まとまった勉強時間を確保するのが難しくなります。
だからこそ、「いつか本気で学ぶ」ではなく、小さくても毎週続ける形に変えた方が現実的です。
たとえば、
週1回だけAIツールを触る、
月に1回だけ業界変化を整理する、
自分の業務で1つだけAIに任せる作業を試す。
それで十分です。
経済産業省の資料が示すように、40代・50代は学び直しの比率が低くなりやすいからこそ、完璧を目指すより止まらない形が大事です。
基本戦略3 在職中の制度を知り、辞める前提で考えない
親のことが始まると、すぐに「辞めるしかないかもしれない」と思い詰める人がいます。
でも、45歳以降のキャリア防衛では、まずそこを急がないことが大切です。
厚生労働省の案内では、介護休業給付は休業開始時賃金日額の67%で、対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割できます。また、介護休暇は対象家族1人なら年5日、2人以上なら年10日で、時間単位でも取得できます。制度だけで全て解決するわけではありませんが、在職中だからこそ使える選択肢は確かにあります。
キャリア防衛とは、収入を守ることだけではありません。
辞めなくても済む余地を、先に知っておくことでもあります。
基本戦略4 親の介護準備を先に進めて、仕事の余裕を守る
ここが、この連載らしい一番大事なポイントです。
45歳を過ぎたら、自分のキャリア防衛と親の介護準備を別々に考えない方がいい。
親の通院先、連絡先、書類の場所、住まいの希望。
こうしたことを元気なうちに少しずつ整理しておくと、いざという時に仕事へのダメージを小さくしやすくなります。
逆に、親のことを何も話していないと、何か起きた瞬間に、
仕事を休む、
実家へ走る、
家族に連絡する、
制度を調べる、
お金の場所を探す、
を同時にやることになります。
これでは、どんなに優秀な人でもキャリア防衛は難しくなります。
今やっておきたいことは3つ
1.自分の仕事を30分で棚卸しする
担当業務を「AIで変わりやすいもの」と「自分の価値が残りやすいもの」に分けてみる。
これだけでも、守るべき力が見えやすくなります。
2.会社で使える制度をメモしておく
介護休業、介護休暇、在宅勤務、時差出勤、相談窓口。
制度を知らないまま限界を迎えると、辞める方向に傾きやすくなります。
3.親の情報整理をキャリア防衛の一部として始める
親のことを先に少し整理しておくことは、自分の仕事の余裕を守ることでもあります。ワーキングケアラーの増加は、もう社会全体の課題です。
まとめ
45歳を過ぎたら考えたいキャリア防衛の基本戦略は、
転職を急ぐことでも、
資格を増やすことでもなく、
選択肢を減らさないことです。
そのためには、
自分の仕事の中身を見直し、
小さく学び直し、
会社の制度を知り、
親の介護準備を前倒ししておく。
この4つをセットで考えることが大切です。
AI時代は、仕事が突然消えることより先に、仕事の中身が変わります。
そして45歳以降は、その変化への対応が必要なのに、親のことや家計のことが重なりやすい時期です。だからこそ、キャリア防衛は早めに始めるほど効くのです。
第13話では、「正社員でも安心できない時代に何を備えるべきか」というテーマで、雇用形態にかかわらず必要になる“生活防衛”の視点をさらに掘り下げていきます。
一緒に頑張っていきましょう。
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