――逃げるなよ。……逃げてないよ。

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コラム
廊下の窓から、
やわらかな夕方の光が差し込んでいた。

凪は、まだ立ち止まったままだった。

悠真の言葉が、胸の奥で何度も響く。

――逃げるなよ。

その一言が、
思っていたよりずっと重い。

逃げているつもりなんて、なかった。

ただ。

どう考えても。

陽菜のほうが、いいと思っただけ。

凪は、小さく息を吐く。

「……逃げてないよ。」

そう言ったけれど、

自分でも、
声が少し震えているのがわかった。

悠真は、何も言わない。

ただ、凪を見ている。

その視線が、苦しい。

やさしいから。

まっすぐだから。

凪は、ゆっくり言葉を探す。

「悠真はさ。」

少しだけ笑う。

でも、その笑顔はうまく作れない。

「陽菜といると、楽しそうだよ。」

悠真の眉が、少し動く。

「見ててわかる。」

凪は、窓の外を見る。

校庭は、もう少しずつ暗くなり始めている。

「陽菜は明るいし。」

「誰とでも自然に話せるし。」

「……みんな、好きになると思う。」

そこまで言って、

凪は言葉を止める。

本当は、

ここから先を言うつもりだった。

――だから。

わたしは。

でも。

その瞬間。

悠真が、静かに言う。

「それで?」

凪は、少し驚いて顔を上げる。

悠真の目は、まっすぐだった。

「それで、凪はどうしたいの。」

その問いに、

凪の胸が大きく揺れる。

どうしたいの。

そんなこと。

本当は、

ずっと前から決まっている。

でも。

それを言ってしまったら、

全部終わってしまう気がした。

夕方の光が、

赤いリボンを、やわらかく照らしている。

凪は、そのリボンをぎゅっと握る。

そして、

ゆっくり息を吸う。

――言わなきゃ。

その言葉が、

もうすぐ、口からこぼれそうだった。
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