廊下の窓から、夕方の光が長く差し込んでいた。
教室の床に、細い光の線がのびている。
凪は、その光の中をゆっくり歩く。
さっき更衣室で見た自分の顔が、まだ頭に残っている。
普通。
それだけ。
でも。
悠真は、そんな自分のことをどう思っているんだろう。
ふと、後ろから声がする。
「凪。」
振り向く。
悠真だった。
窓の光を背にして立っている。
凪は、少しだけ笑う。
「どうしたの?」
悠真は、少し困ったような顔をする。
「さっきから、なんか変だろ。」
その言葉に、胸がきゅっとする。
やっぱり。
気づいている。
凪は、少し目をそらす。
「そんなことないよ。」
でも、声は少しだけ弱い。
悠真は、少しだけ近づく。
廊下の光が、二人の間に落ちる。
「ある。」
はっきり言う。
「凪、今日ずっと変だ。」
凪は、何も言えない。
言ったら、
全部こぼれてしまいそうだった。
好き。
でも。
それ以上に、
胸の奥にある言葉。
――どう考えても。
陽菜のほうが。
その瞬間、
階段のほうから、女子の声が聞こえる。
陽菜だった。
友達と話しながら笑っている。
その笑顔が、廊下にふっと広がる。
凪は、そちらを見てしまう。
そして、
悠真も、同じ方向を見る。
ほんの一瞬。
でも、
その一瞬が、
凪の心を大きく揺らす。
胸の奥で、
何かがゆっくり決まっていく。
――やっぱり。
わたしは、
その言葉が、
もうすぐ口から出そうになっていた。
でも、その前に、
悠真が、静かに言う。
「凪。」
凪は、顔を上げる。
悠真の目は、まっすぐだった。
「逃げるなよ。」
その一言で、
凪の心は、また大きく揺れ始める。