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――俺が見てるの、誰だと思ってる。

凪は、赤いリボンを握ったまま、しばらく動けなかった。悠真の言葉が、胸の奥で何度も響いている。――俺が見てるの、誰だと思ってる。その意味を、考えようとする。でも。考えるほど、怖くなる。もし。もし違ったら。期待した瞬間に、全部崩れてしまう気がした。凪は、小さく首を振る。「……違うよ。」声が、少し震える。悠真の目が、わずかに細くなる。「何が。」凪は、視線を落とす。廊下の床に、夕方の光が伸びている。「悠真は。」言葉が、少しずつ形になる。「やさしいから。」「わたしが落ち込んでると思って、そう言ってるだけ。」そう言いながら、胸の奥が痛む。本当は。違う答えを聞きたい。でも。聞いたら、もう戻れない。凪は、そっと言う。「だから。」その言葉が、出かかる。――わたし、少し距離を。その瞬間。「凪。」悠真の声が、少し強くなる。凪は顔を上げる。悠真は、真剣な顔をしていた。「勝手に決めるな。」その言葉が、まっすぐ胸に届く。「俺の気持ち、聞いてからにしろよ。」廊下の空気が、静かに止まる。凪の心が、大きく揺れる。聞いてしまったら。この恋は、もう後戻りできなくなる。凪は、息を吸う。そして。ゆっくり口を開こうとする。そのとき。階段のほうから、明るい声が聞こえた。「悠真!」二人が、同時に振り向く。陽菜だった。友達と笑いながら、階段を上ってくる。夕方の光の中で、その笑顔は、やっぱり明るかった。凪の胸が、きゅっと締まる。さっきまでの言葉が、急に遠くなる。悠真は、一瞬だけ凪を見る。凪は、小さく笑う。そして。一歩、後ろに下がる。その動きは、とても小さかった。でも。凪の心の中では、何かが静かに決まりかけていた。
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――どう考えても、陽菜のほうが・・・

廊下の窓から、夕方の光が長く差し込んでいた。教室の床に、細い光の線がのびている。凪は、その光の中をゆっくり歩く。さっき更衣室で見た自分の顔が、まだ頭に残っている。普通。それだけ。でも。悠真は、そんな自分のことをどう思っているんだろう。ふと、後ろから声がする。「凪。」振り向く。悠真だった。窓の光を背にして立っている。凪は、少しだけ笑う。「どうしたの?」悠真は、少し困ったような顔をする。「さっきから、なんか変だろ。」その言葉に、胸がきゅっとする。やっぱり。気づいている。凪は、少し目をそらす。「そんなことないよ。」でも、声は少しだけ弱い。悠真は、少しだけ近づく。廊下の光が、二人の間に落ちる。「ある。」はっきり言う。「凪、今日ずっと変だ。」凪は、何も言えない。言ったら、全部こぼれてしまいそうだった。好き。でも。それ以上に、胸の奥にある言葉。――どう考えても。陽菜のほうが。その瞬間、階段のほうから、女子の声が聞こえる。陽菜だった。友達と話しながら笑っている。その笑顔が、廊下にふっと広がる。凪は、そちらを見てしまう。そして、悠真も、同じ方向を見る。ほんの一瞬。でも、その一瞬が、凪の心を大きく揺らす。胸の奥で、何かがゆっくり決まっていく。――やっぱり。わたしは、その言葉が、もうすぐ口から出そうになっていた。でも、その前に、悠真が、静かに言う。「凪。」凪は、顔を上げる。悠真の目は、まっすぐだった。「逃げるなよ。」その一言で、凪の心は、また大きく揺れ始める。
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