ああいう人が、悠真の隣にいたら、きっと・・・
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体育の笛が、短く鳴る。
女子が、ゆっくり動き始める。
凪も、その列の中に入る。
でも。
胸の奥では、まださっきの光景が残っている。
陽菜の笑顔。
悠真の、やわらいだ表情。
たったそれだけのことなのに。
どうしてこんなに、胸が重くなるんだろう。
女子の列が整う。
先生が言う。
「今日は軽くランニングからね。」
グラウンドを、一周。
みんなが走り出す。
凪も走る。
風が、頬を通り過ぎる。
少しだけ、楽になる。
でも。
頭の中は、
静かに同じことを繰り返している。
――どう考えても。
陽菜のほうが、似合う。
走りながら、凪は前を見る。
少し前を、陽菜が走っている。
背中が軽い。
足取りも、自然で。
途中で振り返って、友達に笑いかける。
その笑顔に、周りの空気がふっと明るくなる。
凪は、思う。
やっぱり。
ああいう人が、
悠真の隣にいたら、
きっと。
自然なんだろうな。
体育が終わる。
女子の更衣室は、少し騒がしい。
凪は、ゆっくり制服に着替える。
赤いリボンを結びながら、
ふと、手が止まる。
鏡の中の自分を見る。
普通。
ただ、それだけ。
誰かを明るくするような笑顔も、
自然に空気をやわらげる力も、
きっと、ない。
胸の奥で、
その言葉がまた浮かぶ。
――やっぱり。
凪は、そっと目を閉じる。
好きだから。
好きだからこそ。
その考えは、少しずつ形になっていく。
放課後。
廊下の窓から、夕方の光が入る。
凪は、まだ知らない。
この決意が、
悠真の心を、
大きく揺らすことになるなんて。
そして。
この恋が、
ここから、
静かに、
大きく動き始めることを。