……ちょっとだけ、寂しかった。
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コラム
月曜の朝。
教室のざわめきが、少しだけ遠く聞こえる。
凪は、自分の席に座ったまま、
悠真の姿を視界の端で探していた。
いる。
いつもと同じ場所。
いつもと同じ横顔。
それだけで、少しだけ胸が温かくなる。
(やっぱり、好きなんだ)
苦しいのに。
不安なのに。
それでも、好きは消えない。
休み時間。
悠真が、凪の机の前に立った。
「おはよ。」
短い声。
でも、目がまっすぐだった。
凪の心臓が、ひとつ跳ねる。
「……おはよ。」
一瞬だけ、視線が絡む。
その瞬間、
昨日までの距離が、少しだけ縮む。
悠真が、ぽつりとつぶやく。
「昨日、なんか変だったよ。」
凪は、息を止める。
言葉にするのは、怖い。
でも。
逃げ続けたら、
本当に遠くなってしまう気がして。
「……ちょっとだけ、寂しかった。」
小さな声。
ほとんど、風に消えそうな声。
でも、悠真には届いた。
少し驚いた顔をして、
それから、やわらかく笑う。
「そっか。」
それだけ。
言い訳も、否定も、しない。
「ごめん。」
その一言が、胸に落ちる。
凪は、泣きそうになる。
泣かないけど。
“ちゃんと、届いた”
それがうれしい。
昼休み。
陽菜が、無邪気に笑っている。
その声は、相変わらず明るい。
でも、今日は少し違う。
凪は、逃げなかった。
悠真の隣に立つことも、
目を合わせることも、
やめなかった。
好きでいることを、
隠さなかった。
それだけで、
少しだけ、強くなれた気がした。
放課後。
帰り道。
二人の距離は、昨日より近い。
触れない。
でも、近い。
「凪。」
「なに?」
「俺さ、ちゃんと考える。」
何を、とは言わない。
でも、わかる。
凪は、小さくうなずく。
空は、まだ曇っている。
でも。
その向こうに、
薄い光が見えた気がした。
甘い。
でも、まだ不安。
それが、この恋。