ねえ悠真くん、今度テスト終わったら一緒に帰らない?
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コラム
夕焼けが沈み、
教室には薄いオレンジ色の影が伸びていた。
三人で並んだ机の上には、
開いたノートと消しゴム。
静かな時間のはずなのに、
凪の心臓だけがやけに大きく鳴っている。
「ここさ、この公式使うんだよ」
悠真がそう言ってペン先を動かす。
「へぇ〜!さすが悠真くん!」
陽菜は目を輝かせて身を乗り出した。
その拍子に、陽菜の肩が悠真の腕に軽く触れる。
ほんの一瞬。
でも、凪にははっきり見えた。
悠真が少しだけ驚いて、でも離れなかったこと。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
(近い……)
陽菜は気にした様子もなく、楽しそうに笑う。
「悠真くんと勉強すると分かりやすいんだよね。
凪ちゃんもそう思わない?」
突然振られて、凪はびくっとした。
「え……う、うん」
声が少し震えてしまう。
悠真が心配そうに凪を見る。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
そう言いながら、目をそらした。
本当は全然大丈夫じゃない。
陽菜はくるっと悠真の方を向いた。
「ねえ悠真くん、
今度テスト終わったら一緒に帰らない?」
凪の心臓が止まりそうになる。
教室の空気が一瞬固まった。
悠真は少し驚いた顔をして、
それから困ったように笑った。
「えっと……」
その沈黙が、やけに長く感じる。
凪は息をひそめて答えを待った。
陽菜の瞳はまっすぐで、真剣だった。
「私ね、悠真くんともっと話したいんだ」
素直な気持ち。
逃げ場のない空気。
悠真はゆっくりと口を開く。
「……ごめん」
凪の胸が跳ねる。
「約束があるんだ」
「約束?」
陽菜が聞き返す。
悠真はちらっと凪を見る。
「凪と、一緒に帰るって決めてる」
その言葉に、凪の目が大きく見開かれた。
陽菜は一瞬驚いたあと、
少しだけ寂しそうに笑った。
「そっか……そりゃそうだよね」
でもすぐに、明るい声に戻る。
「じゃあ、また今度誘うね!」
その笑顔は変わらない。
けれど凪にはわかった。
陽菜も傷ついている。
誰も悪くない。
それなのに——
胸が苦しい。
片づけを終え、三人で教室を出るとき。
廊下で陽菜が立ち止まった。
「凪ちゃん」
「な、なに?」
「悠真くん、大切にしてあげてね」
その言葉はやさしくて、でもどこか切なかった。
凪はうまく返事ができず、ただ小さくうなずいた。
陽菜は手を振って、先に帰っていった。
残された二人。
夕暮れの廊下には、二人分の足音だけが響く。
「さっきは急に言ってごめん」
悠真が小さく言った。
「でも……凪と帰るのは、
俺にとって大事な時間だから」
凪の胸が熱くなる。
「悠真……」
嬉しいのに、同時に苦しい。
(陽菜ちゃんの気持ちも知ってしまったから)
悠真は少し照れながら歩き続ける。
凪はその背中を見つめながら思った。
この関係は、もうただの静かな日常じゃない。
誰かの想いが動き出した以上、
きっとこの先、もっと揺れる。
もっと苦しくなる。
でも——
それでも、離れたくない
夕焼けの廊下で、
三人の恋は・・・