変わるのが怖いって、本気で誰かを想ってる証拠だよ

記事
コラム
金曜日の帰り道。

学校の裏門から続く並木道は、
冬の気配をまとった風が通り抜けていた。

歩幅は自然と揃っていて、
凪と悠真の影は、
時々重なっては離れ、また寄り添う。

「今日は……ありがとう」
凪がぽつりと呟くと、
悠真はゆっくり首を振った。

「俺の方こそ。
 凪に名前呼ばれたの、ずっと反芻してた」

「反芻って……牛みたい」

凪が笑うと、悠真も照れたように笑った。

「でも、本当に……やばかった。
 呼ばれた瞬間、
 心臓おかしくなったかと思った」

(そんなふうに言われると、
     またドキドキするよ……)

風が二人の間をすり抜け、
冬の匂いだけを残していく。

ふと、凪の髪が風に揺れて、
頬にふわりとかかった。

悠真が自然に手を伸ばし、
 軽く払い落とそうとした――

その瞬間。

指先が、ほんの一瞬だけ触れた。

「……っ」

触れたと言えるほどの強さでも、
握ったと言えるほどの距離でもない。

ただ、指先の温度が、
胸の奥まで届いてしまう“瞬間”。

悠真は、そのまま少し固まった。

「ご、ごめん……!
  今の、勝手に……!」

「ち、違……びっくりしただけ……!」

凪も顔が熱くなり、
手をぎゅっと握りしめた。

(触れたいなんて思ってなかった……
  でも、触れられた瞬間……
      嫌じゃなかった……)

むしろ。

心臓の高鳴りが止まらなかった。

並木道の出口が見えてきたころ、
悠真が息を整えながら話し始めた。

「ねぇ凪。
 俺、ひとつだけ言っていい?」

「……なに?」

夕暮れの光の中、
悠真の横顔は少しだけ真剣だった。

「俺、凪に触れるの……すごく怖い。
 凪が嫌がったらどうしようとか、
 嫌われるかもしれないとか……」

凪は思わず立ち止まった。

悠真も歩みを止め、こちらを向く。

「でも……今日、
 ちょっとだけ触れた時……
 凪がびくってしたのに、
 逃げなかったから……」

言葉を探すように、
悠真は目を伏せた。

「……すごく、嬉しかった」

凪は胸の奥がじわっと
熱くなるのを感じた。

逃げなかった理由は言えない。

もし「嫌じゃなかった」と
言ってしまったら、

きっと、
今日の帰り道では止まらない気がしたから。

でも――

「……私も、怖いよ」

「え?」

「触れたら、きっと……
 なんか変わっちゃいそうで。
 変わるの、怖い」

悠真は少しだけ目を見開き、
それからふわりと微笑んだ。

「変わるってさ……悪いこと?」

凪は言葉を失った。

(……悪いこと、じゃないよね)

でも、
その“変わり方”が
どんなものなのかが怖かった。

悠真は凪の沈黙を、
優しくすくい上げるように言った。

「変わるのが怖いって、
 本気で誰かを想ってる証拠だよ」

凪の胸が、またきゅっとした。

(……また言葉を選んでくれる)

そんな悠真の横顔が、
どうしようもなく愛おしく見えてしまう。

家の近くの交差点に差し掛かったとき。

「凪」
「……なに?」

悠真は、
昨日と同じ温度で凪の名前を呼んだ。

それだけで、胸が跳ねる。

「手……」

「えっ……」

「いや、違う……!
 握りたいとかじゃなくて……!」
悠真は慌てて手を振った。

「ただ……もし凪が、
 “変わるのが怖い”って思うなら……
 俺も一緒に怖がるよ、
      って言いたかっただけ」

凪は頬を赤くしたまま、
息をひとつ吸った。

「……ありがと」

(変わるのが怖い。
 でも……そんなに
     悪くないのかもしれない)


指先の温度はまだ残ったまま、
凪はゆっくりと心を開き始めていた。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら