凪……反則……

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コラム
金曜日の朝。

教室の窓から見える空は、
冬の色に少しずつ近づいていた。

冷たい風が流れているはずなのに、
凪の胸の中には
ほんのり温かいものが灯っていた。

昨日、上手に話せたから。
ちゃんと気持ちを交換できたから。

(今日は……
   もう少し踏み出せる気がする)

自分でも驚くほど、
心の奥が前へ進む準備をしていた。

放課後の図書室は、
静けさがいつもよりやわらかく感じられた。

席に着いた凪は、深呼吸をひとつ。

そこへ、扉が開く。

悠真が、少し急ぎ足で入ってきた。

頬が赤く、
息がほんの少しだけ弾んでいる。

「凪、待った?」
「ううん、今来たところ」

その言葉が自然に口から出たことに、
凪は自分で驚いた。

悠真は凪の前に座ると、
珍しく、
ちょっと言いにくそうな顔をした。

「今日さ、
   俺の方から……話したいこと、ある」

「え……?」

胸の奥が一気に高鳴る。

悠真は、机の上で両手を軽く組み、
まっすぐに凪を見た。

「昨日、
 凪が“嫌だった”って言ってくれたとき……
 俺、正直ちょっと嬉しかったんだ」

凪の心臓が跳ねる。

「だってさ。
 誰かに嫉妬されるって……
 期待してもらえてるってことだろ?」

頬が一気に熱くなる。

(ずるい……そんな言い方……)

悠真は照れくさそうに笑い、続けた。

「でさ……実は俺も、
 ちょっとだけ言いにくいこと、ある」

凪は息をのんだ。

“自分だけじゃなかった”
その予感がして、胸の奥が甘くなる。

「名前……呼んでみてほしい」

「……え?」

「“悠真”って。
 凪に呼ばれたら……
 多分、結構やばい」

凪は言葉を失った。

(やばいって……何それ……)

頬が熱い。
胸も熱い。

心の奥で
何かがはじけたような感覚。

悠真は軽く俯き、小さな声で付け足した。

「俺、凪に呼ばれる名前が、
     一番好きなんだと思う」

その言葉は、
凪の胸の奥のど真ん中に落ちた。

(……呼びたい。
 でも、呼んだら、
 何かが変わっちゃう気もする)

しばらく沈黙が続き――

凪はぎゅっと手を握りしめ、
小さく息を吸いこんだ。

そして、
ほんの少しだけ視線を逸らすように言った。

「……ゆ、悠真」

その瞬間だった。

悠真の肩がぴくっと揺れ、
驚いたように顔を上げた。

「……やば……」

(え?そこまで?)

凪の心臓も、同じくらい跳ねていた。

悠真は額に手を当て、
こらえるように小さく笑った。

「凪……反則……」

凪は恥ずかしさで俯いた。

でも、そのとき――
ふいに、指先をつつかれた。

驚いて顔を上げると、
悠真の指が、
凪の人差し指にそっと触れていた。

触れたか触れないかの距離。

「……呼んでくれて、ありがとう」

その声は、昨日よりも、
ほんの少しだけ近かった。

心の距離が
またひとつ縮まった瞬間だった。

凪は小さく息を吸い、
勇気をふりしぼって問いかけた。

「ねぇ悠真」
「ん」
「私も……ひとつお願い、
       してもいい?」

「もちろん」

凪は胸の奥のドキドキをごまかすように、
机の端をそっと指でなぞった。

「……私の名前も、呼んで」

悠真は一瞬だけ目を丸くした。

そして、静かに――
大切なものを扱うように言った。

「……凪」

その声の温度に、
凪の胸の奥がじんわりと溶けていく。

名前を呼ばれるだけで、
こんなに近くなるなんて。

こんなに嬉しくなるなんて。

――名前を呼び合う距離。

それは、
恋の扉を静かに開く合図のようだった。
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