うん。いつでも

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コラム
月曜日の朝。

校門に向かう道には、
冬の匂いがしっかり混じりはじめていた。

低い空、白い息、少し乾いた風。

凪は手袋を忘れたことを軽く後悔しながら、
ポケットの中で指をこすり合わせた。

(今日……また話せるかな)

あの日、指先が触れたこと。

変わるのが「怖い」と言い合ったこと。
名前を呼び合ったこと。

ひとつひとつが胸の奥に残り、
朝になっても消えずに残っていた。

校門の前。

「凪!」

聞き慣れた声に顔を上げると、
悠真がマフラーの隙間から
白い息を吐きながら走ってくる。

「おはよ」
「……おはよ」

凪の声は自然に柔らかくなった。

「寒いね。大丈夫?」
「うん。ちょっと手、冷たいけど」

「……手袋、忘れた?」

図星すぎて、凪は目をそらした。

「……うん」

悠真は笑いながら言った。

「そっか。じゃあ――」

その瞬間だった。

ゴォォッ――と冬の強い風が吹き抜け、
凪のマフラーの端が
ふわりとめくり上がった。

「あ――」

反射的に押さえようとした凪の身体が傾き、
足元の砂利に軽くつまずいた。

ぐらり――

「凪!」

悠真が腕を伸ばし、
凪の肩と腰に手を添えて支えた。

ふたりの距離は、一瞬で“息が触れる距離”へ。

凪は驚いて顔を上げた。

悠真は心配そうな顔で、
でもその瞳はどこか動揺していて。

「……だ、大丈夫?」

「う、うん……!」

声が震えたのは、風のせいではなかった。

悠真の手は、すぐには離れなかった。

むしろ、
支える指先がそっと力を緩めるのを
ためらっているように感じた。

凪の心臓は、きっと見えるほど跳ねている。

(近い……こんなに……)

風が止み、静けさが戻った頃。

悠真はゆっくり凪から手を離した。

「ごめん……つい……」

「ううん……助かった……ありがとう」

悠真はその場で数歩後ろへ下がり、
自分の胸に手を当てて大きく息をついた。

「やば……本気で倒れたと思った……
 心臓、止まるかと……」

その言葉と一緒に、
彼の耳まで赤くなっているのが見えた。

(……心配してくれたんだ)

胸の中で、じんわりあたたかいものが広がる。

二人で歩き出すと、
先ほどの距離が嘘のように自然に近かった。

悠真がぽつりと言った。

「……あのさ、凪」
「なに?」

「もし……また風が吹いたらさ」

凪は横を見る。

悠真は少し照れていた。

「今度は、ちゃんと支えるから。
 さっきみたいに……
 光速で飛びつくんじゃなくて」

凪は思わず笑った。

「光速……だったんだ」
「うん、俺の中ではね」

「……じゃあ。
 また頼るかもしれないけど……」

凪は勇気を出して、
少しだけ歩幅を寄せた。

「そのときは、よろしくね。悠真」

悠真は凪の名前を呼ばれた瞬間、
驚いたように目を丸くしたあと――
ふっと目を細めた。

「うん。いつでも」

その返事は、
冬の風さえあたたかくするような声だった。
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