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まだ誰も気づいていない

校門の前。朝の光が、少しだけ強くなる。凪と悠真。ほんの少しの距離。その距離が、やけに遠く感じる。「……おはよう」さっき交わした言葉の余韻が、まだ残っている。次の言葉が、出ない。凪は、少しだけ指を握る。逃げないと決めたのに。やっぱり、少しだけ怖い。悠真が、ゆっくり口を開く。「昨日のことなんだけど」その声は、落ち着いていた。でも、どこかで、迷っている。凪は、うなずく。「……うん」短い返事。でも、ちゃんと聞く姿勢。悠真は、少しだけ息を吸う。「俺さ」少し間。視線を外さない。「ちゃんと見てるつもりだった」凪の心臓が、少しだけ強く鳴る。「でも」悠真の声が、少しだけ低くなる。「見てなかったかもしれない」その言葉に、凪は少しだけ目を見開く。予想していなかった言葉。悠真は、続ける。「昨日さ」少しだけ苦笑する。「陽菜にも言われたんだよ」一瞬だけ、空気が揺れる。「……ゆうまのおばかさんって」凪の心が、少しだけ揺れる。その言葉。どこか、引っかかる。でも、不思議と、やさしく響いた。悠真は、少しだけ目を細める。「たぶん、俺」少し間。「ちゃんと見てなかった」まっすぐな言葉。逃げていない。そのことが、伝わる。凪は、少しだけ息を止める。胸の奥が、静かに揺れる。(……あ)昨日、感じた違和感。それが、少しだけ形になる。悠真は、続ける。「だから」一歩、少しだけ近づく。距離が、ほんの少し縮まる。「ちゃんと知りたい」その言葉が、静かに落ちる。凪の視線が、揺れる。逃げたくなる。でも、逃げないと決めた。凪は、小さく息を吸う。「……わたしも」声が、少しだけ震える。震えが止まらない。「ちゃんと話したい」言えた。はじめて、ちゃんと
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……ずるいよ、そういうこと言うの

冬の冷たい空気が、校舎の廊下にゆっくりと入り込んでくる。チャイムが鳴る前のホームルーム教室は、いつもより静かだった。凪は席につきながら、窓の外の沈んだ空を見た。(なんだろ……   今日はずっと胸が落ち着かない)昨日の並木道での出来事。風でマフラーがめくれた瞬間、体勢を崩した凪を、悠真が本気で抱きとめたこと。その時の 手の強さ。息が触れそうな距離。そして、あの赤くなった耳。全部、まだ胸に残っていた。1限目。現代文。席は斜め後ろ。ちょうど振り返れば悠真が見える位置。……だから凪は、振り返らないように必死だった。(気づいたら見ちゃいそう……   いや、見たくない……   いや、見たい……)ノートの上に書いた文字が少し震える。そのとき。ふと、視線を感じた。(……え?)ゆっくり後ろを向くと――悠真がじっと、凪を見ていた。目が合った。凪の心臓が跳ねる。悠真はわずかに目を見開き、それから照れたように視線を逸らした。(なんで見てたの……?)胸がざわざわして、授業の内容が頭に入らない。休み時間。凪は教室の後ろでノートを整理していた。そこへ悠真が近づいてくる。「凪、今の……」凪は咄嗟に言ってしまった。「見てないよ!全然っ!」悠真は一瞬きょとんとし、そこからゆっくり笑った。「俺が見てたって話なんだけど」凪の顔が一気に熱くなる。「……っ、なんで……見てたの?」悠真は少しだけ真剣な表情になって言った。「今日の凪、   いつもより落ち着かなく見えたから」「お、落ち着いてるよ……」「うん。そう見えたらいいんだけどさ」悠真は指でノートの端を軽く触れ、目を逸らさずに続ける。「……本当は、  今日ずっと気になって
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じゃあ…… また呼んでもいい?

家に帰ってきた凪は、玄関で靴を脱ぎながら、さっき悠真が肩を支えてくれた温度を思い出していた。涙を見られたこと。弱さを見せてしまったこと。(……恥ずかしい)そう思うのに、胸の奥ではなぜか“安心”が溶け残っている。リビングの電気をつけても、その余韻は消えなかった。夜──。布団に入っても、眠れなかった。(悠真……  怒ってたわけじゃないよね……)思い返すほど、心がざわざわする。そのとき。スマホが小さく震えた。画面には——『帰ってから大丈夫?   ……無理してない?』悠真からのメッセージだった。胸がぎゅっとなる。返信を迷っていると、またメッセージが届いた。『今日のこと、 無理に話さなくていいよ。 でも……泣かせたくなかった』凪は思わず息をのんだ。(……泣かせたくなかった、って)指が震えながらも、凪は返す。『大丈夫。迷惑かけてごめん』数秒後、即レスが来た。『迷惑なんて思ったことない。 むしろ…… 頼ってくれて嬉しかった』その言葉は、今日いちばん凪の心を揺らした。胸の奥のなにかがぽたりと溶けて、涙がまたこぼれそうになる。(……どうして  そんな優しいこと言うの……)スマホを握ったまま、布団に顔を埋める。そのとき——『凪』名前だけのメッセージが届いた。え? と凪は固まる。(名前だけのメッセージなんて……  どういう意味?)ドキドキしていると、続けてもう一通。『ちゃんと呼びたくなった。 今日、 泣きそうな顔してた時も…… 名前で呼びたかった』凪は一瞬で目が熱くなる。言葉が返せない。胸がいっぱいで、指が動かない。送信画面を見つめていたら、またメッセージが届いた。『……嫌だった?』凪は慌てて返信す
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変わるのが怖いって、本気で誰かを想ってる証拠だよ

金曜日の帰り道。学校の裏門から続く並木道は、冬の気配をまとった風が通り抜けていた。歩幅は自然と揃っていて、凪と悠真の影は、時々重なっては離れ、また寄り添う。「今日は……ありがとう」凪がぽつりと呟くと、悠真はゆっくり首を振った。「俺の方こそ。 凪に名前呼ばれたの、ずっと反芻してた」「反芻って……牛みたい」凪が笑うと、悠真も照れたように笑った。「でも、本当に……やばかった。 呼ばれた瞬間、 心臓おかしくなったかと思った」(そんなふうに言われると、     またドキドキするよ……)風が二人の間をすり抜け、冬の匂いだけを残していく。ふと、凪の髪が風に揺れて、頬にふわりとかかった。悠真が自然に手を伸ばし、 軽く払い落とそうとした――その瞬間。指先が、ほんの一瞬だけ触れた。「……っ」触れたと言えるほどの強さでも、握ったと言えるほどの距離でもない。ただ、指先の温度が、胸の奥まで届いてしまう“瞬間”。悠真は、そのまま少し固まった。「ご、ごめん……!  今の、勝手に……!」「ち、違……びっくりしただけ……!」凪も顔が熱くなり、手をぎゅっと握りしめた。(触れたいなんて思ってなかった……  でも、触れられた瞬間……      嫌じゃなかった……)むしろ。心臓の高鳴りが止まらなかった。並木道の出口が見えてきたころ、悠真が息を整えながら話し始めた。「ねぇ凪。 俺、ひとつだけ言っていい?」「……なに?」夕暮れの光の中、悠真の横顔は少しだけ真剣だった。「俺、凪に触れるの……すごく怖い。 凪が嫌がったらどうしようとか、 嫌われるかもしれないとか……」凪は思わず立ち止まった。悠真も歩みを止め、こちらを向く。「で
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